アウトドアガイドの失敗談。

 

とにかく後悔していた。

 

南国の強い日差しに焼かれた肌で眉間にシワを寄せると肌が張ってさらにヒリついた。

 

まだ空は赤く明るい。だが、太陽は遥か彼方の水平線に沈んでしまった。

すぐ夜が来て、まもなく辺りは暗くなってしまう。

 

 

そんな事はわかっているものの、目前の岸に辿り着けずに僕たちは焦っていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝6過ぎ。

 

 

 

季節は7月に入ったが、南の島は6時でもまだ薄暗い。

変わり映えのない田舎道を運転するには眠くなりそうな明るさだが、この日を楽しみにしていたので朝から頭も冴えて睡魔も寄ってこなかった。

 

 

前日に泊めてもらった友人の家を出てから30分程で道路の終点に着き、車を停めた。

 

 

 

車に載せてきた荷物を浜に運び、僕は折りたたみ式カヤックを組み立て始めた。

 

 

 

 

しばらくして友達の流星くんも浜に降りて来た。

軽く挨拶もすませると、彼は自分の働くショップから借りてきたカヤックに荷物を詰め込み始めた。

流星くんのカヤックを組み立てる必要がないので、僕が組み立てている間に流星くんは先に準備を済ませて、僕の準備が整うのを待ってくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

この日は夏場にしては珍しくお互いの休みが合った日だった。

 

 

夏場は沖縄全体が忙しくなる。

ツアーガイドをしている僕らガイドは7.8.9月は特に忙しく、1ヶ月に休みが1日なんて時もある。台風が来てくれない限り夏の休みは珍しい。

 

そんな夏場にお互いの休みを合わせられる事は稀で、流星くんとは前から「カヤックでツーリングに行こうよ!」と話ていたので、今回は絶好の機会になった。

 

 

 

 

 

 

 

数日前に流星くんから「この日空いてる?」と連絡をもらった時に僕も休み予定であったので、すぐにカヤックを乗り行こうと決まった。

目的地は、前から興味があった波照間島西表島からカヤックで渡る事にした。

 

 

 

僕はまだ行った事のない波照間島カヤックで島渡りをして行く事に心踊る思い出あった。

流星くんは1度カヤックで渡った事もあり、僕はそれを聞いて経験者と行ける事で安心しきっていた。

今回の僕はかなり人任せな気持ちで行った事を今になって深く反省する。

 

 

 

 

 

 

 

この日のプラン

 

大潮 満潮 6:31 20:05 干潮 00:26 13:25

 

北風4-5m のち東風7-8m予報。

 

うねり1mから2.5m 

 

 

 

フィリピン沖で出来た熱低が近づいて来ていて、八重山列島周辺も影響が出始めてくる日であり、予報より強まる可能性もあった。今考えるとかなりギャンブルである。

 

 

目標。

西表島の南側、南風見田浜から波照間島北側ニシ浜 約23キロ。 自分のペースは平均時速7キロで漕ぎ続けられるので、片道約3時間半予想、帰りは風の影響をうけるのでスピードも落ちておおよそ5~6時間予想 行きは南に進み追い風だが、帰りは反対の北向きになるため、風に向かって進む事になる。なので時間も帰りの方がかかる。

 

 

 

普段プライベートだと1人で漕いでいるので、初めて友達とツーリングに行くのにめちゃ浮かれてた。

しかも漕げる相手がいる安心感になぜか安全な気がして、謎の信頼感に身を委ねていた。

お互いに「何とかなるでしょと」バラついた一体感だけで、今思うと自分で漕いで行くのに何をしてるんだか。

 

 

 

道具やルートの事前の準備も行き当たりばったりでしていたので計画性はゼロに近かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝7時半頃、カヤックの組み立ても終わり、出発の準備ができた。

僕たちは朝凪の鏡のような海の上に漕ぎ出した。

 

 

漕ぎ出して最初はたわいもない話をしていたが、徐々に口数も減って互いに自分の時間に入る。

 

 

僕はパドリングを意識していた、自分の前にある水面にパドルを刺して確実に後ろに送り出す。そうするとカヤックはズイっと前に出て余力でスーと水面を滑る。

いかに前の水を取れるか、いかに効率よく、確実に力を伝えられるか、とてもシンプルで単純な動きでも、する人が変わればカヤックの進み方は驚くほど差ができる。

意識して自分のパドリングをもう1度確認しながら漕げるほどこの時の海は穏やかだった。

 

 

 

時刻はまだ8時半ごろ。

 

微かに見える波照間島を見ながらたまに水を飲んでまた漕いだ。

 

少しずつ強くなる日差しに照らされながら、じわっと汗が出てくる。

海水で湿った袖で、汗をぬぐってさらに進んだ。

 

 

 

 

波照間島を見ながら進んでいると、遠くの方から鳥が少しづつ近づいて来ているのがわかった。

遠くからでもわかる大きな鳥で、2人でジーと眺めていると徐々に近づいていた鳥はカツオドリだった。

 

 

 

 

 

カツオドリは国内だと仲御神島、伊豆諸島、硫黄列島小笠原諸島草垣群島尖閣諸島で繁殖する海鳥。

島、以外にも本州でも確認された例もある。

 

体調は70センチ程度、翼を開くと最大150センチにもなる

 

有名な繁殖地だと仲御神島が「仲の神島海鳥繁殖地」として国から天然記念物として指定されてる。

 

 

 

名前の由来は、カツオなどがいる魚群の周りを飛んでいた鳥を漁師の人がカツオドリと呼んだことが由来らしい。

カツオドリはカツオが追いかけていた小魚を食べる。カツオを襲うから、カツオドリとかではないそうだ。

なので、地域によっては漁師の人が呼ぶカツオドリも実際は他の鳥を指している事もあるそうだ。

 

 

 

見た目は、背中は黒い羽で覆われていて、腹側は羽が白い。

クチバシだけでなく顔全体に羽がないので特徴的な顔をしている。

お面を被っているような、そんな独特さがある。

 

 

 

 

 

 

 

徐々に近づいてくるカツオドリは、水面スレスレをを飛びながら僕らと3メートル位の距離まで来ると急上昇をして僕らの頭の上をグルグルと飛んでは少し離れて、また近づいてくる。

近くを飛んでるカツオドリを見るとその迫力とスピードが圧巻であった。

 

 

何度も近づいてきて、何かを確認しているようだった。

僕らの目線と同じ高さで何度かカヤックの周りをぐるぐるとしている事もあった。僕は相手が近づいてくる度にその独特な顔を見ていた。

何を考えているのかが全く表情に出ない。能面のような独特な顔に惹かれてジッと見ていたら、僕の横を通り過ぎる瞬間にギョロリと目玉だけ動かしてこっちを見ていた。

睨まれたような気がした。勝手に威圧感を少し感じながらも、相手の静かな迫力に感動して漕ぐ手を止め眺めていた。

 

 

前にエンジン船から見上げた事があったが、ここまで近くに寄って来なかった。僕たちの乗っている小舟は休憩所にでも見えたのだろうか。

もし餌だと思って僕らを観察していたとしたら怖いけど、流星君は僕より10センチは背が低いので連れてかれても彼だろうなと思って僕はホッとした。

 

 

 

 

 

カツオドリも遠くに行ってしまい、僕らはまた先に進んだ。

遠くの方に海鳥の繁殖地として有名な仲御神島が見えた。それも靄がかかり、島の影だけが海面からポコっと盛り上がっているのが見える程度であった。

 

 

途中でアジサシの群れが小魚を襲っているのに遭遇した。アジサシは魚を取りに10羽以上が次々とミサイルのように海めがけて突っ込んでは出てきて突っ込んでを繰り返している。

海面も大きな魚が跳ねたりもしているので、僕らは興味津々で近づいてみたが、どんどん魚群は離れて行ってしまい結局間近では見れなかった。

 

 

周りの大きな魚に襲われ、上空からも奇襲が行われる状況は、小魚からしたら恐怖でしかないがそんな大混乱の海の中はどうなっているのだろうか。

相当迫力がありそうだなと興味は湧くけど、ビビリの僕は近づききれずに微妙な距離で見てる姿が想像できた。

それでもいつか見てみたい。

 

 

 

 

気がつくと時計は10:00を過ぎていた。

漕ぎだしたのが、7:30頃だったので、約3時間近く。

距離だけで言えば、3時間半くらいでつける距離なので、休憩などの時間を考慮しても4時間かからないで波照間島につける予定であった。

 

 

この頃には島影もはっきり見えていた。上陸予定の浜もハッキリと見えている。徐々に近づいているのが目に見てもわかるようになってきていた。

そうなると嬉しさでパドリングにも力がはいる。

更に進むと海の青さが西表島と違うのに気が付いた。後から聞いたが「波照間ブルー」なる単語もあるみたいで、観光客の人が沖縄の海の青さを例えて「入浴剤の色」なんて言うが、実際はブルーレットが置かれているんではないかと、思うくらいの蒼さであった。沖縄の島は何箇所も巡ったけど、こんな色は見た事がなかった。

 

「流星くん蒼がすごいよ!濃ゆいよ!すげー色だよ!!」と感動した僕はひたすら流星くんに話しかけていた。流星くんも同じものを見ているのでそんなに言われなくてもわかってる。

 

 

 

 

 

浜には人が多く、それも観光客のカップルばかりだ。男2人がキャッキャとするには似合わないビーチであったが、僕らはおかまいなしにはしゃぎながら2人で動画や写真を撮った。

最初は23キロあった距離が10キロ5キロ1キロと進んで行き、ついには100メートル内に入っていた。もう今にも飛び込んで泳ぎたいくらいの気持ちであったが、ジリジリと最後まで距離を詰めて、僕らの足は波照間島の地面を踏んだ。

 

 

 

行きに漕いだ時間は予定に近く約3時間50分 到着11頃、予定どうりのペースで到着ができた。

 

 

 

 

カヤックを岸に上げてひと段落させた。ワナワナとこみ上げる嬉しさのぶつけ所として、とりあえず2人で自撮りをした。

海にチャプチャプと入り、体の熱を冷まして僕らは飯を食いに波照間島のそば屋へ向かった。

 

 

 

流星くん曰く、波照間島には最高の八重山そばの店があるそうで波照間に着いたらそこで昼飯を食べる事になっていた。

浜から歩くこと10分ほどで「ついたよ」と流星くんがいう場所はまさかの港だった。

「え、港にあるの?」と流星くんに聞くと「そうだよ。」と流星くん。

道沿いとかにそば屋があるのかと思っていたから拍子抜けした。まあ、隠れた名店ってやつなのかと思って港にある船の待合所に入った。

 

 

 

待合所の中を見渡してみると、お土産やさんが2店ほどあり、それ以外には見当たらない。キョロキョロとしていると一角に廃墟みたいな場所を見つけた。

まだ昼頃だというのに、その一角だけはなぜか薄暗く、雑な落書きがまた人の寄り付かなさを表していた。見てくれは小さなカンター席とその奥は暗くてハッキリ見えないが、厨房になっているようだ。

「これかな?」と聞きながら隣をみると、流星くんも驚いた顔をして無言で立っている。

「これっぽいね」少し間を開けて流星くんの返事が返ってきた。

 

 

 

潰れてしまったのかと気になり、お土産屋のおばさんに話を聞いてみた。おばさんも少し嫌そうな顔をしながら「私も知らないと」同じ待合所の中にある店なのに、全くの無関心で驚いたが、それでもやってないならしょうがないと僕らは渋々、港を後にした。

港に行く途中2件飯屋を見かけたが、どちらも臨時休業の札がかかっていたので、待合所のパンフレットを広げながらシラミ潰しにお店探す事にした。

 

 

 

 

 

 

飯屋を探す道中、お土産屋のおばさんの露骨に嫌そうな態度が腑に落ちなかった。

同じ建物で商売をして毎日の様に会う環境なのに、なぜ、そば屋がどうなったのか知らないのだろうか。そこには一体どんな理由だったのだろうか?

 

考えられる理由としては1つは単にそば屋の人間が嫌い。2つ目はそもそも興味がない。3つ目は僕らに対しての嫌そうな態度だったのか。

 

 

1つ目の理由としてはあり得そうだ。

 

世の中には、なぜか癪に触る人がいる。おばさんからするとそば屋の店主がまさにそんな人間だったのかもしれない。

それか、同じ待合所でお店を出しているので、ライバル意識があるとも考えられる。

そばが人気で全く自分の店にはお客がこない事に嫉妬心ダダ漏れだったのだろうか。

やっと宿敵のそば屋が潰れたのに、そこで僕らが「そば屋」という単語を出してしまったから、また嫉妬心がぶり返していたのかもしれない。

 

 

2つ目としては、あまり納得できない。

 

いくら好奇心の無いおばさんだろうと、同じ建物内でそば屋をやっている人が急に店を閉めたら話くらい噂で聞きそうなものだ。

「知らない」の一言では、潰れたのか、長期休暇なのかそれすらもわからない。こんな人口も少ない田舎に住みながら全く知らないのは流石におかしすぎる。

 

 

 

3つ目はあり得そうだ。

 

塩水や汗でベトベトな服や髪でお店を尋ねた僕たちを怪しんでいたのかも知れない。

服もボロで雑に扱えるものを着ていたので、流星くんに関しては肩が破れて肌が出ている。僕も服を日焼けさせすぎて元々青い色の長袖は肩や首元は白っぽくなり汚いグラデーションの様になっている。

 

真っ黒に日焼けした肌のボロボロの服を着た、髪の毛なんかも海水でベタベタな奴2人がおばさんの小さなお土産屋さんに入ってきたら、おばさんを警戒させても納得できる。

なんなら、万引きとかされるかもと警戒して、レジの下でカラーボールを握りしめていてもおかしくない。

怪しい奴が「そこのそば屋潰れたんですか?」と聞いてきたので、とっさに「知らない」と雑に答えてしまっただけかも知れない。

 

 

なんならこれが正解に近い様な気がしてきた。

 

最初はそば屋の人間が憎いのかと思っていたけど、僕らのせいだったか。

そうだとしたら、ごめんね。おばちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

灼熱の炎天下の中歩く事30分。僕らはパンフレットを見ながら歩いていた。

今の所、5件中全てが休業となっていた。僕らは汗をダラダラ流しながら、路頭に迷っていた。

果てしなく続くサトウキビ畑に囲まれた道を歩いて、出てきた6件目のお店も臨時休業であった。

パンフレットを見ていると飲食店が密集している所が少し離れたところにある。行こうか一瞬悩んでみたものの、暑さと今きた道を戻って飯屋を探しに行く面倒臭さに負けて行く気にはなれなかった。

とりあえず「商店でも行ってとりあえず冷たい物でも飲みに行こうか。」と決めて、カヤックを留めた浜の方向に歩き続けていると、僕たちはかき氷屋さんを見つけた。

 

 

 

 

腹が減った男2人はかき氷屋さんの前に立ち止まっていた。

かき氷はどう考えても食べ物というより飲み物だ。9割5分は氷なわけだし、食えたらなんでもいいと言ってもかき氷は流石に違う。

お店の外観からは、どう考えてもおしゃれだ。汗垂らしながらボロボロの服を着た男2人が入る雰囲気では全くない。場違いという言葉そのままであった。例えるなら、お葬式にふわちゃんがいる様な感じだ。これも場違いだけど例えとしてなんか違う。ふわちゃんじゃなくてマットかな?これも違う。もう分かんないからいいや。

 

 

 

 

僕と流星くんはモジモジしながら、「どうする?」と2人して迷っていたが、何か食べ物もあるかもと希望にかけてお店に入ってみた。

お店の感じは、外席がいくつもあって注文や受け取りはお店の窓で行う。早い話がフードコートと同じ仕組みだ。

僕らは注文の列を並びながらメニュー見ていた。千円近くのかき氷がずらっと並ぶメニューの中に「カレー」という字を見つけて、ホッとした。僕と流星くんはカレーとビールを注文すると注文口に一番近い席に着いた。

 

 

 

 

商品を待ちながら、周りを見渡していると かき氷を持った人が次々と僕らの横を通る。カップルや女の人だけのグループ。僕ら以外は、旅行客でお店は賑わっている。

それにしても女の人の割合が多い。みんなカキ氷を入れて写真を撮ったり、カキ氷単体を撮ったり、食べてるところを撮ったりと楽しそうだ。

どれもカラフルで山の様に積まれた氷が印象的なおしゃれなかき氷。波照間島の黒糖を贅沢にかけてある味がとても美味しそうであった。

ただ、おしゃれかき氷でいつも思うのだが、「氷の量が器のキャパにあってないよね。」

 

 

 

 

前にデートでおしゃれなかき氷屋に言った事がある。

器から横にも縦にもはみ出ている物をこぼさないで食べようと、気を使いながら食べた。スイーツを食べるのにあんなに神経がいるのか全く分からない。

見た目がオシャレだからだろうか。そういえば、「オシャレは我慢だ」とか言う人がいるが、そうなんだろうか。僕には全く意味がわからない。

オシャレをするのも、かき氷を食べるのも、必要以上に神経を使うほどの事なのだろうか。オシャレしたいなら代償に何の我慢をするべきなのだろうか。

 

 

 

ゆっくりと慎重に食べ進めてたら、僕のオシャレなかき氷は溶け始めて器から溢れて徐々にみっともなくなっていった。

氷を落とさない様に丁寧に食べると溶けるペースに間に合わない。僕が食べるのが下手で僕もかき氷も最終的には汚らしくなったしまった。

 

焦って食べていたらキーンと頭の中が痛くなるが、それでも女の子の前だからなるべくこぼさないで食べたかった。頭の痛みを我慢して食べている様は見るに絶えなかったのであろう。女の子の視線は氷よりも冷たく、そして頭痛よりも痛かった。

千円も払って何の罰を受けているのだろうと僕はかき氷もロクに食べれない不甲斐なさに心の中で泣きながら、ドロドロに溶けたかき氷を口に運んだ。

 

結局、身の丈に合わない事を無理してやってもキャパを超えているので、ボロも出るし、そもそも無理しちゃってる時点でダサいのだ。

かき氷も丁度いい器に入れたら僕も頭痛と視線の痛みに傷つかなかったはずだし、彼女の引いた顔も見なくてすんだかもしれない。

見た目と中身も合わせたそのままの姿が一番しっくりくるのだと僕は思う。

 

 

 

そんな事を思い出してかき氷を食べている人達を見てたら、自分の中で「そんな背伸びしてかき氷食べなくていいですよ。」と「俺、わかってますよ」という勘違い理解者の気持ちになっていた。

 

そんな理解者気取りの僕は生ぬるい目線で周りを見ながら

 

「みんなに慈悲の心を差し伸べたい。」

「無理しているあなた。僕はあなたの事を変だと思いませんよ。わかってますよ。」

「かき氷なんて本当は食べたくもないんでしょ。」

 

優しさをはき違えた、独りよがり野郎に成り下がっていた。

 

 

 

そんな自分に今は言いたい。

 

 

 

 

「お前いるとこカキ氷屋だからな。」

 

 

 

 

 

 

 

注文していたビールとカレーが届いた。

 

 

カレーは器にご飯とルーを分けてあるシンプルスタイルで、ルーの上にはガーリックチップが数枚のせてある。具は煮込む途中で消えてしまたのか見当たらない。ルーはザ・日本カレーの色や匂いをしていた。

まだ、口がそばのままだったので少し後ろ髪を引かれる様な気持ちもあるけど、そんな贅沢は言えないのでスプーンを手に取り僕は念願の食事にありついた。

 

 

何口か食べ進めて分かった。これ出来合のカレーの味がする。流星くんを見るとこっちを見ながらニヤッとしていた。

僕は流星くんに「これ、あのー食べたことある味だよね。」と話しかけて流星くんも同じ事を思っているか確認してみたかった。だけど、店員さんに一番近い席にいるので「これ出来合のカレーだよね!」なんて言えば聞こえてしまうからすごく遠回しな聞き方しかできなかった。

 

 

流星くんは僕が何を言いたいのか察したのか突然「これレトルトカレーや!!」と大声で言ってしまったので、あちゃーと内心思いながらめちゃ笑ってしまった。

更に「漫画喫茶で100円で食ったカレーと同じ味がする!」と追い討ちをかけてきたので僕は内心、店員に怒られるんじゃないかとヒヤヒヤしていた。

ここまで露骨に言ってる流星くんに「俺はダイレクトに言わない様にしてたのに。」と言いながらあまりに周りを気にしないで喋る流星くんに驚いてゲラゲラ笑いすぎて久々に涙が出た。

 

 

一杯千円するカキ氷屋で食べたカレーは500円だったので、レトルトにもかなり現実味が出ていた。

 

食事をすませて僕らはまた帰りに備えて「漕ぐぞ!!」という気持ちに切り替えた。

 

 

 

 

この日は西表島に夕方までには帰る予定で13時には漕ぎ出して明るい内には西表島に到着しておきたかった。

行きは朝方の風も弱い時間帯で穏やかであったが僕らがお昼を食べて、出発前に海を見たときには風も予報通り強くなり水面には白波がピョンピョン跳ねていた。向かい風だが、こんな状況で漕いだこともあったので時間はかかっても戻れるだろうと踏んでいた。

それと明日は仕事なので今日中に帰らないといけない。と思ったのが間違いであった。

 

 

 

とりあえず早く帰ろうという事で、カヤックに乗り込み海へ漕ぎ出した。

 

 

 

行きが4時間かからないくらいで着いたので、海の状況を見て遅くても6時間あれば帰れるんじゃないかと思っていた。

夏場の八重山諸島は19時半くらいまでは太陽が出ていて完璧に暗くなるのは20時過ぎ、暗くなる少し前には目標のポイントに着くだろうと思って海に出ていた。

 

 

 

途中、少し寄り道もしたが3時間半漕いだ時にはまだ中間地点を超えたくらいで17時前になってしまった。

向かい風とウネリもある状況で、この時引き返していれば追い風に乗って波照間島には明るい内についていたであろう。ただ、この時は西表に帰るという頭で一杯で引き返すなんて全く思いつかなかった。

 

 

 

さらに1時間半進み18時半頃。突然、潮に流され進むのが厳しくなった。ウネリも潮の流れと同じ方向から来るので進んでいないと言ってもいいほどであった。

どうなってもすぐ上陸できる様に西表島の岸沿い近くまでは着いていたのが幸いであった。

太陽が沈むまで、残りのリミットは1時間。それまでに帰るポイントとして決めていた地点にはかなり距離がある。しかもカヤックも潮に捕まり進まない。

 

 

 

元々目指してた地点は西表島の南海岸沿いの中でも比較的東寄りの岸になる。西側の方向に流れがあるので、流れに逆らって漕いでも思う様にカヤックが進まない。

焦る気持ちもありお互いに少し余裕がなくなっていたが、それでも必死に予定していた目的地に戻ろうと漕いでいた。

 

 

 

僕らが帰りのポイントにこだわる理由は、西表島は半周道路と言われる道しかない。

名前の通り島の半分しか道路が通っていないので、どこの浜に上陸しても道路に出れるわけではない。

南側と西側にかけて道路が通っていないので、それがかなり悩みの種であった。

僕らが、行きと帰りのポイントにしているのは道路の終点なので、そこまで行かないとどこの浜に上陸しても結局帰れないからであった。

 

 

 

そこから1時間。岸沿いをぴったり張り付く様に進んでみたが、1時間漕いで1キロ~2キロ程度しか進んでおらず、太陽も水平線の向こうに消えてしまった。

時間のリミットを迎えて互いにピリついた状態でどうするか話したが、とりあえず岸に上がるしか方法は見つからない。

潮が満ちているので、インリーフに入れる状況になので、僕は目の前の岸に上がろうと流星君に伝えて予定とは違うがとりあえず西表島に上陸することができた。

カヤックを岸にあげると、お互いホッとして砂の上に腰を下ろした。

 

 

 

約7時間ほど漕ぎ続けての到着になり、予想から1時間もずれた結果。まだ目的地には着いておらず、これから帰らないと行けない事。

 

 

 

ましてや島が近づいてきて急に西側に流された事が頭の中をよぎっていた。ウネリもあったがあんなにカヤックが進まなくなる程の潮の流れに捕まったのは初めてであった。

潮の流れが強いポイントだと知らなかったのも今回の失敗の1つだった。

 

 

 

それからは2人でこの後どうするかを話していた。今夜は野宿をして早朝で帰るかという話も出たが、どんどん天気が悪くなる事やインリーフも満ちてきたのでその中なら強い流れにも捕まらずに帰れるだろう。距離的にも2時間あれば帰れそうであったのでその日のうちに帰る事にした。

そうこう話しているうちにだんだんと暗くなり本格的に夜になってきた。僕たちはもう1度カヤックに乗り込み帰り始めた。

 

 

 

この日運のよかったのは丁度満月であった事も大きかった、満月の明るさは都会では感じれないが、自分の影が映るほど明るく水面や岸沿いの影ははっきりと見えた。新月であればもう暗すぎて諦めて野宿をしていただろう。

浅い所もあるので自分のカヤックを擦らないように気をつけながら進んだ。思っていたより日中の暑さがなくなったことでかなり身体的には漕ぎやすくなっていた。

 

 

 

 

お互い夜漕ぐのは初めてだったのでかなり緊張もしていた。ただ月の明かりのおかげで想像以上に漕ぎやすかった。

潮の影響もなくカヤックはスルスルと水面を進んでいく。

満月の光が映る水面が綺麗であった。前までは夜の海は不気味なイメージだったが、この時は不思議と穏やかな気持で不安や不気味さは全く感じない。

水面に映った月を見ていると、どうも吸い込まれるような不思議な魅力がある。

 

 

船乗りの言葉で、夜の海は覗くな。という言葉がある。

沖縄本島で漁船に乗って仕事をしていた時がある。その時の船長も似たような事を言っていた。

それは、夜の海の魔力とか海に呼ばれてるとかでは無くて、単に暗くて水面との距離感が掴みずらいからじゃないかと船長は話していた。

 

海上での夜は水面を覗きすぎて海に落ちる奴がいる。

ただ、確かに落ちるのは距離感が掴めないからとしてもなぜか、水面を見てしまう。何か見える訳でもないのに。

あまりスピリチュアルとかは信じてないけど、あの覗いてみたくなる気持ちは一体なんなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

1時間程度漕いだあたりで流星くんのお店の人から僕らが遅いので心配の電話がかかってきた。

ずっと圏外だったので、携帯を見ておらず、帰るのに必死で全く考えていなかった。

周りの人はそんなに心配してくれていたのかと思うと本当に申し訳ない。

今回の失敗のこれも1つだ。

 

 

 

 

 

 

21:30頃に予定の浜に到着できた。

かかった時間は一度上陸した所から1時間半ほどだった。

行きは4時間かからない程度、帰りは8時間かかってしまった。

 

 

こんな大変なことになるなんて思ってもいなかったので、かなり疲れたが失敗の経験になった。それと気をつけないところが明確に出たので、たくさん課題の見えた1日だった。

 

 

もう2度とギャンブルのような賭けには出ない。

海をなめていた事を反省して、前より海も怖く感じてしまう。

慎重にいかに事前の準備が大事か痛感した出来事でした。

 

 

 

 

一応、カヤックでどこか行こうと思っている人。

これからカヤックをやって見たい人は気をつけてください。

 

 

参考程度に下に動画を載せておきます。

 

 

 

海保がカヤックの簡単な安全対策を説明してます。

グランストリームの大瀬志郎さんが監修しているそうです。

大瀬さんはキャンプツアーなどを行うベテランシーカヤックガイドです。

www.youtube.com

 

 

下手くそのいい例も載せておきます。

グダグダで面白くないですが、典型的な準備不足の人の映像です。

映像を見る限り、波もそこまでないのでただ単に下手です。

海が荒れすぎて九死に一生では無くて、経験がなさすぎてテンパりまくって自分で危なくしています。

 

www.youtube.com

 

 

それでは!