沖縄本島一周。8日目。

 

沖縄本島の東側。嘉陽の浜で朝を迎えた。

目がさめてフルメッシュのテントの中から辺りを見回そうと頭を少し持ち上げる。

海の方を見れば水平線の先からぼんやりと空が白んできているのが見えた。

まだ起きるには少し早いかと思い頭を地につける。

僕の真上はまだ星がちらついて夜のようだ。

海の向こうからは朝が近づいてきている。

 

 

 

東海岸の朝は気持ちが良くて好きだ。

早く起きれた時は陽が昇るのを見る楽しみがあって、寝過ごしても徐々に日が差してくれば自然と目が覚める。

どうしても眠くて起きる気になれない時は強烈な日差しでジリジリと焼いてくれるので、怠けがちな僕も起きるしかなくなる。

今日は風も気持ちよくテントの中を通るので、もう少しだけウトウトしようかと思っていたが、天気も良く特に景色も綺麗な場所にいるので僕は浜辺を散歩することにした。

 

 

 

嘉陽の浜は長く歩けるので散歩にはもってこいだ。

徐々に明るくなる空に連れて睡魔をまとって鈍い体も頭も覚めてきている。

アクビと共に伸びをしたら、岩場を登って静かな朝の景色を眺めた。

そろそろ水平線に陽を拝めそうだ。

 

 

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満足したらテントに戻って、前に買っておいた菓子パンを食べて海に出た。

 

 

 

 

 

 

 

北東側の海岸は岩肌が荒々しく剥き出しになっている所が多く、人の手があまり入っていない迫力のある景色が続いている。

カヤックのスピードに合わせて徐々に流れる景色を見るのも海上での楽しみの1つだ。

 

この日見た景色は今回の旅でも特に印象的だったのを覚えている。

場所は天仁屋岬。

水の透き通る綺麗な場所に荒々しく削られた岩が突き出ている。

浅瀬は穏やかだが深場は外洋のウネリが岩に打ち付けては砕けていた。

今回の旅で迫力のある場所の1つだった。

 

 

 

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天仁屋岬を越えてしばらく湾内を進む。

陽も頭の真上近くまで登ってきていて気がつくと腹が減ってきた。

普段の昼飯はドライフルーツとナッツが一緒に入った乾き物を食べて海の上ですませている。

意外と体を動かしているからか腹は減らないもので、更に日差しと海面から上がってくる熱気にやられて昼間は食欲が湧かない。

だけどこの日はやけに腹が減ってどうしようもなかったので、どこかで休憩することにして歩を進める。

しばらくすると魚港が見えてきたので、隣の浜に上陸した。

 

漁港=集落。

 

「人が住んでいるなら商店が有るはずだ。」と思い近くを散策しながら店を探すつもりで飲み物やカメラなどの荷物を持った。

南国の7月。強い日差しの中、アスファルトの上を彷徨うのはしんどそうだが、減った腹には耐えられない。

田舎だとどのくらい歩けば商店があるかもわからない。先は長そうだ。

それでも「飯のために頑張るか!」と意気込み、浜に引き揚げたカヤックを離れた。

焼けた砂浜の傾斜を登ると正面に商店が鎮座していた。

散策用の荷物を置きに一度カヤックに戻って財布を片手に商店に向かった。

 

 

 

 

扉を開けると、お昼時の商店は地元の人達で賑わっている。

1つしかない商店のレジ前では子供を連れた奥様方が弁当を手に他のお客と話している。

僕も残り少ない弁当の乗ったワゴンの中からオニギリとカップラーメンを持って列の最後尾に並んだ。

前の人達からは他愛のない世間話が聞こえてくる。

昼間の商店は地元の交流場所と化していた。

 

最近は極端に1人で海にいる時間が増えて普段の生活とは違う数日が続いている。

日中は気を張っている場面が多く、人との交流も減った。

だけど今日は商店という場所の些細な日常の風景に当てられて、普段の生活感が自分の中に戻ってきた。

そのせいか気持ちが緩んでしまった。

 

 

 

 

商店を出て脇の木陰で昼飯をガッツいたがまだ物足りない。

仕方ないのでアイスとチョコレートも食べたら緩んだ気持ちに眠気と疲れが足されて海に出るのが面倒になってきた。

 

少し休憩をしてから出発する事にしたが、緩んだ気持ちがなかなか引き締まらなくてそのまま今日は一泊したい位だった。

ただ、野営をするには不向きな場所だったので、渋々海に出るしかなかった。

 

 

 

 

 

集中力もなく漕ぐことが億劫だ。

風も一周を始めてからずっと向かい風が続いていて気持ちを削っていく。

更に漕ぐ度に脇腹が痛むようになってから、痛みが日に日に増してきていて、パドリングする度に肋骨の内側が軋むような鈍い痛みが楽しさを半減させていた。

 

気持ちが萎えてくると一気にカヤックは進まなくなってしまう。

そうなると前に進まない事に気分が落ちて、負のループから抜け出すのが難しくなってくる。

ズルズルとカヤックを漕ぎ続けるのも微妙なので今日は適当な所で上陸しようと思っているのに、「隣の方がいいビーチかも。」と期待して進んでいる間に気づけば夕方になってしまった。

 

 

 

時間もないので「次の岸で強制上陸。」と誓いカヤックを漕いでいると、超えた岬の脇に小さなビーチがあった。

あそこだったら通り過ぎたビーチの方が良かったなと少しガッカリしたが、もうそんな事は言っていられる程の時間も無いので一泊過ごす事に決定した。

上陸しようと近づくと小さなウネリが岬にぶつかって跳ね返り他のウネリにぶつかって岸周りは水がグチャグチャとしている。

浜も砂ではなく、お手玉サイズの丸っこい石で埋め尽くされていてカヤックを上陸させずらい。

 

 

 

 

僕の乗っているカヤックの素材はFRPやポリエチレン製ではなく布やゴムに近い質感なため、すり傷や切り傷にとても弱く、石の上を引きずって岸に揚げたくなかった。

持ち上げて上陸させたいが、荷物一式が入っているカヤックを1人で持ち上げるのは無理だ。

結局、なるべく穏やかそうな所で波に邪魔されながら急いで荷物を降ろしてカヤックを持ち上げて上陸させた。

バタバタとしてる勢いでそのままテントを張って飯の支度をしている間に気づけば辺りは薄暗くなっていた。

 

 

 

朝はあんなに気分良く出発したが午後からは疲れた1日だった。

 

 

 

 

無人の小さな浜で1人、焚き火を囲みながら持っていた日本酒を呑みその日を終えるのであった。

 

 

 

 

明日には本島最北端の辺戸岬に着けるだろう。

気がつけばこの旅ももう半分近くすぎていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄本島一周。7日目。

台風が通り過ぎるまで知人の古民家に3泊させてもらった。

元々クーラーもなかった家なので戸を締め切った家の中は尋常じゃなく蒸し暑い。

する事もないので、畳の上に寝そべってひたすら時間を潰した。

 

うたた寝から起きると寝汗で体がベタベタして気持ちが悪い。

いつの間にか停電してしまったようで扇風機が止まっていた。

携帯の充電も切れて更に暇になってしまった。

明かりも点かない部屋は暗く、雨戸の隙間から漏れる光で昼間か夜かがわかる。

それ以降もただ時間が過ぎるのを待っていた。

 

3日目の朝には風の吹く音が弱まってきたので戸を開いた。

一気に部屋の中が明るくなって風が吹き込んでくる。これでだいぶ過ごしやすくなった。

台風対策で家に仕舞った物を外に元通りにして気持ちも入れ替える。

これでまた海に出れる。

天気も台風が来たのは嘘の様に晴れ晴れとしていた。

 

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風や波が落ちついてきたタイミングで、前回上陸した浜にカヤックを下ろして荷物を詰める。

この日は浜比嘉島から嘉陽集落までを目指していた。

最短ルートで行ければ大体40キロ程度だ。

天気は相変わらずの向かい風。

今日も頑張ろう。

 

 

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漕ぎ出して最初は海中道路と言われる橋でつながった島沿いを進んでいく。

本島中部の東側に3つの島が平安座島。宮城島。伊計島。の順で並んでいる。

 

ちなみに僕が出発した浜比嘉島平安座島と1キロ程の橋で繋がっているが、これは海中道路が出来た当初は繋がっておらず。船で島渡しをしていた。

帰りが遅くなって渡し船がない時は、泳いで島に帰る人もいたそうだ。

僕だったら暗い時間帯の海を泳いで家に帰る気にはなれない。

 

中には泳いで帰るのが大変なので、舟を探していた時にカヤックの存在を知った人もいた。

それからは渡し船が無くてもカヤックで島を渡って帰路に着いていたという。

今では沖縄のリゾートアクティビティで有名なカヌーやカヤックが沖縄に入ってきた最初はそんな形で乗っている人がいたのかと思うと今とのギャップに笑えてくる。

 

話が逸れたが、浜比嘉島から僕は平安座島と宮城島の間を通って金武湾という大きな湾の中に出た。

伊計島沿いから湾の外側を周ってしまうと潮の流れがとても強く、実際にも船の事故が多いそうだ。地元の漁師の話を聞くとかなり警戒されてる場所なのがわかる。

なので僕は宮城島と平安座島の間の水路を抜けて金武湾内を進む事にした。

湾内は大きな貨物船なんかも頻繁に通っているので、船に轢かれないように航路は一気に渡たった。

 

対岸に近づいてきた時に目の前でウミガメが息をしに水面から顔を出した。

僕には全く気づいてない様で、真横を通っていても微動だにしない。

普段はこちらに気がつくとすぐに逃げてしまうのにな。と不思議に思って見ていると、亀の顔を見たときにゾワ〜と寒気がした。

目元はヤニの様な汚れでビッシリ覆われていて全く目が見えてなさそうだ。

甲羅にも黄色い膜が張っていてそれが陽の光を反射してテラテラとしている。

見た目に素直に汚いと思って引いてしまった。

ただ、自分の生活から出た汚れでそうなってしまったのかと思うと自分が引いた事に罪悪感も出てきた。

 

自分は生活排水の混ざっている汚い川では泳がないし、魚やエビが取れたとしても食べたくない。

この亀がいた場所は人の生活しているすぐ近くだ。海も綺麗とはいえなかった。

そんな所で暮らしていると、この亀の様になってしまうのだろうか。

それともただの老いだったのだろうか。

僕の生活も関係しているならやっぱり可哀想というのは他人事すぎる。

だけど、だからといって僕は普段の生活を手放したくない。

結局、普段の生活であまりゴミや生活排水を出さないように気にする事しか僕にはできない。

そんなことを思っていると亀は息継ぎを終えてまた海の中に消えていった。

亀を見送り自分の中にモヤモヤとした気持ちを残しながら先を目指した。

 

しばらく岸沿いに進んでいると突然、水面にロープで境界線を引かれているところがあった。しかもロープはずっと先まで続いている。

何かなと思って地図を見たらここは辺野古だった。

基地建設で埋め立て工事が行われている真っ最中で工事をする区画の境界線だった。

ここがそうなんだと思いながら境界線ギリギリを進んでみる。

 

境界線の近くには内側も外側にも漁船が回遊している。

赤く警戒船と描かれた旗を掲げて、何人かの男たちがこちらを見ていた。

前に車で建設予定地を通った時は座り込みの人達が看板を持って列を作っているのを見たことがある。

その時感じた雑踏や喧噪としているイメージとは打って変わって、海側から見る辺野古は淡々と工事が進められている。

 

元々、街の中にある米軍基地の騒音問題や米兵による地元民とのトラブル、事故があった時に被害が出やすいという理由で人口の少ない所に引っ越す計画で辺野古が選ばれた。

そこで生まれ育った人達からすれば自分の故郷を潰される思いで辛い思いをしている。

僕は辺野古基地は地元民の反対運動のイメージが大きかった。

なのだけど、僕は自分の地元にあまり住んだ事が無く、しかもベットタウンで常に変化している場所に故郷という思い入れがあまりない。だからか、反対運動の目線でしか見れてない辺野古基地にあまり関心がなかった。

 

ただ、海から基地の建設現場を見たときに規模の大きさに驚いた。

こんな広い部分を埋立地に出来るんだと。

埋め立て予定地は長崎にあるハウステンボスと同じくらいの広さみたいだ。

僕はあまりピンときていないが、行ったことがある人は想像してみて欲しい。

進めど進めど区画は続いて行く。そんな広さの場所を、基地を引っ越すと決めたら埋め立てて新しい基地にしてしまう事に度肝を抜かれた。

途中に見えた大量の土砂を運ぶ船やクレーンを積んだ船の数々。その大きさを見たときに圧倒されるものがあった。

人が出来る予想外のスケールの大きさに、ただただ呆気に取られることしか出来なかった。

 

基地が作られて静かな海辺が消えてしまうのはやはりさみしい。

一体どんな浜だったのだろうか。

そう思うと埋め立ててしまうのは、とても残念で仕方ない。

 

 

 

 

区画を抜けたら、目的地の嘉陽集落が見えてきた。

陽は島の反対側に沈み始めて昼間のような日差しはもうない。

砂浜が続く岸沿いを進んであまり目立たない所に上陸した。

 

 

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カヤックをあげてテントを張っていると、散歩で浜に降りてきたおじさんに声をかけられた。

「君はこれで来たのか?」

おじさんの指はカヤックを指していた。

僕はおじさんの質問に頷いて、その後もしばらくおじさんと立ち話をしていた。

浜比嘉島から漕いで来た。」と言うとおじさんは驚いた顔をして※「はっさびよ〜」とだけ呟いてカヤックをまじまじ見ていた。

海辺の集落では、船に興味を持ってくれる人が多い。

海にいた人や船乗りだった人が自分の若い頃や海に馳せた感覚を思い出すのか声をかけてくれる。

そんな地元のおじさんと、たまたま立ち寄った僕が同じ浜で会話をする。

昔からこの浜の景色を見ている人の話を聞いて、一晩過ごすだけのその場所が一気に近く感じる感覚がある。それがとてもおもしろい。

 

僕が話を聞いておもしろいと感じている時おじさんは何を思っているのだろうか。

僕もおじさんになればわかるのかな。

 

台風明けの焼けた空も徐々に淡く焼けた色から深い紺色になり始めていた。

おじさんと別れて1人酒を飲みながら1日の終わりを感じていた。

 

 

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※はっさびよー 驚いた時に出る沖縄の方言。

 

6日目の蝉

 

今年も夏が終わろうとしている。

重そうに入道雲が浮かび近くに感じた空も、今では力なくかすれた雲が模様の様に青さに張り付いて、空がやけに遠く感じる。蒸し暑かった夜も、過ごすには気持ちのいい時期なってきた。

 

遠慮なく肌を焼く日差しや鬱陶しい暑さが今では恋しい。

熱帯夜に友達とのむさ苦しい飲み会もいい思い出だ。海や川で遊んだり、一夏の色恋があったりと周りの人にも活気を感じられる。

今では人の活気も夏ほどではなくなり、外ではあんなに鳴いていた蝉の騒がしさも落ち着いてきている。

 

 

 

あんなに活発だった蝉は夏を具現化した様な生き物だ。

テンション。アドレナリン。体からあふれる熱の様な活力そのものを蝉は全力でやりきって夏の終わりとともに儚く散るのだ。

なんて潔い生き物なんだろうか。

とても興味が湧いたので、調べてみる事にした。

今回はみなさんにもそれを共有しようと思う。

 

 

 

調べてみて驚いたが、蝉は世界に約3000種類もいるらしい。そんなに数が多いとは驚きだ。

そもそも、蝉の寿命を知っているだろうか。地上に出てからは短命なのは有名な話だが、全体を通して幼虫から成虫になるまで3年から長いと17年と土の中で生活して地上に出るらしいのだ。

そんな時間をかけて地上に出てきた蝉は蛹になって、あの蝉の形になる。

羽化したての蝉は全体的にまだ体が出来上がっておらず透き通っていて色も綺麗だ。

生まれたばかりのかわいい様子を天使みたいと比喩することがあるが、そういう部分で言えば蛹から出たばかりの蝉は無垢で白っぽくて羽も生えているので天使に近い。

 

 

 

天使と言えば、友達の堀井くんが、少し前に天使を見つけたと言っていた。

なんでも海でカヌーをしていた時に、ダイビング船に乗っているのを見たらしい。

日焼けして真っ黒な天使だったそうだ。

 

堀井くんは27年の人生で初めての一目惚で、人生で初めての感覚に自分でもでびっくりしたそうだ。

一目惚れはどんな感じだったか聞いてみると「天使が眩しすぎて直視できなかった。」そう鼻息を荒く話す、やけにテンションが上がっている堀井くんを見て僕は夏を感じていた。

17年土の中にいて初めて地上に出てきた蝉も外の世界の眩しさにびっくりした事だろう。

 

 

 

地上に出てきた蝉は、うざったいほどの音で鳴き続ける。これは求愛でオスだけが鳴く。

鳴くと言っても声帯からではなくお腹の部分にある筋肉を動かして発音機の役目をしている膜を動かして音を出す。

それの鳴き声や時間帯が種類によって違い、ミンミンゼミは主に午前中。アブラゼミは午後から夕方。ヒグラシは早朝と夕方。

そんなふうに種類によっても生態に違いがあるそうだ。

 

それにしても夏の風物詩と言えるあの爆音をあんな小さい体から出すなんて驚きだ。

あんなにうるさいと思ったのに鳴声を聞かなくなるとなんかさみしく感じてしまうのは僕だけだろうか。

 

 

 

そう言えば堀井くんも一時期、同じ事ばかりを言っていた時期があった。

口を開けば「天使やー」や「付き合いたい」とばかり言っていた。

夜の時間は特に堀井くんの声量も大きくなって、飲み会の時はずっと「天使!天使!」と言っていて最初は面白かったが、途中からは聞き飽きてうるさかった。

それも気がつけば、最近は耳にすることがなくなっている。

なぜか、今では少しさみしい。

 

 

 

 

セミは自分が出す鳴き声でメスを惹きつける。メスはオスの鳴く声を頼りにオスを探し出す。そして、出会った二匹は子孫を残すために勤しむのだ。そこまで大胆不敵に鳴き続けられる蝉は本当にパワフルだ。

 

それでもその鳴き声のせいで天敵に見つかって食べられてしまうのも沢山いる。

逃げも隠れもせず、アピールを続けてやっとパートナーから見つけてもらう。

漢のなんと情熱的で純愛なアプローチの仕方だろうか。

 

そしてメスはそんな熱烈なオスの鳴く声を聞いて一体何を思うのだろうか。

 

 

 

 

そう言えば、少し前に飲み会があった。

 

普段飲まない人たちの飲み会で、そこには堀井くんの天使の姿があった。

今回飲み会にいた人で天使と知り合いの人が堀井くんの「天使」発言を聞いて飲み会に呼んでくれたそうだ。堀井くんがずっと「天使!天使!」と言い続けてたアクションでついに堀井くんは天使と出会うことができた。

やはり自分のアピールを続ける事がこうやって出会いを作るんだと改めて気づかせてもらった。

 

ただ、堀井くんは緊張と爆上がりしたテンションで天使の横で饒舌に話し過ぎてしまった。

あまりにも隣でアピールされ過ぎた天使は堀井くんの誇張された話に「堀井くんは嘘つきや〜」と言い残し、堀井くんは天使に虚言癖の烙印を押されてしまった。

 

けたたましくアピールしてくる相手に対して求愛された者は何を思うのか。蝉の場合はわからないが、堀井くんの場合は「嘘つき。」と思われたそうだ。

 

 

 

 

 

蝉はあんなに一生懸命鳴き続けてもパートナーが出来ずにその一生に幕を下ろす者も結構多いようだ。

 

人間は悩んでどうでもいい事に気を取られて足踏みをして煮え切らない時間を過ごす時もある。色々と言い訳をして逃げているうちに時間だけが過ぎた事に気がついてまた気を落とす。

 

それに比べて蝉は常にストレート、一本の全力投球だ。

ブスだろうが。デブだろうが。人見知りだろうが。そんな事をくよくよしている時間がないのだ。

それでも蝉の童貞率は37%ほどらしい。それに比べて日本人は25%だと言うのだ。

蝉はあんなに頑張っても日本人より相手が見つかる可能性は低い。

それでもそんな事を気にしているより鳴き続けるしかないのだ。

 

 

 

 

そう言えば、堀井くんも前の飲み会でかなり空回りして吹かしまくっていたが、そんな事は気にせず、めげないでデートに誘ったらしい。

天使も快くお誘いにのってくれたそうで、2人でカヌーに乗って夕陽を眺めて月が上がってくるまでずっと海の上にいたそうだ。

「色々な話ができて楽しかった。」と嬉しそうに話す堀井くんを見て一度の失敗でくよくよしない男らしさを持つ堀井くんを少しカッコイイと思った。

行動を起こし続けるそれこそが、いかに重要な事なのか僕は思い知らされた。

 

そして、その後も何度かデートを重ねて遂に2人は付き合う事になった。

後で知ったが、堀井くんは付き合う前から天使に「一目惚れしてる。」や「天使だと思った。」などドンドンと相手にアピールし続けていたそうだ。

その隠さずストレートで全力投球な姿勢に漢らしさを感じて僕は堀井くんを少し尊敬した。

蝉もそのくらい男気の溢れる生き物なのだろう。

 

 

 

 

地上に出てきた蝉が短命なのは皆さんもご存知の通りだ。

 

1週間で死ぬ。なんて言うのは昔のイメージなだけで、環境さえ良ければもっと長生きだそうだ。じゃあなぜ、蝉が1週間で死ぬと言われるようになったのかというと、繊細で飼うのが難しいから捕まえるとすぐ死んでしまうという理由みたいだ。

 

そんな所だけ聞くと儚さだけが目立ってしまうが、人生の目的のために蝉は熱を注ぎ続けるのだ。その熱が儚さをさらに浮き彫りにするのだろう。

 

熱を持って今を全力で生きている蝉もパートナーが出来た時は浮かれたりするのだろうか。

 

 

 

 

 

付き合い始めた堀井くんは、とても幸せそうだった。

 

僕は友達の流星くんと2人で堀井くんの職場へ行った。こちらに気がついた堀井くんが「おお!」と僕らにかけた声量でわかった。普段の6倍はテンションが高い。

 

早々と僕らに、夜空の下で付き合う事が決まった時の甘ったるい話をする堀井くん。胸焼けしそうな空気に耐えられなくなった流星くんは「1ヶ月で別れるに1万。」と言い放った。コイツなかなかの大穴狙いだ。

その後も堀井くんは「2人で見た星空は一生忘れない。」と続けるので、僕は「2ヶ月で忘れる。」に1万ベットしておいた。

 

僕は内心「彼女イイなぁ」と指をくわえながら羨ましく思う事しかできなかった。

浮かれすぎてる堀井くんは本当に幸せそうで、2人の幸せは誰にも邪魔できないであろう。

この幸せの行き先は誰にも分からない。

 

ただ、1つわかる事とすれば、僕は本当に賭け事に弱いのだ。

 

 

 

 

 

蝉はやがて木に捕まる力すらなくなり地面に落ちる。

地面に落ちた蝉を触ると物凄い勢いで暴れてビックリするが、蝉ももう残り少ない命を削って抵抗する。もう木にすら捕まっていられないのに。

 

寿命も残りわずかになり地面に落ちた蝉は仰向けになっている。

体の構造上背中側が重いからだそうだ。

そんな蝉は最後は澄んだ青い空を眺める事なく、背中側にある目は地面を見つめている。

蝉の最後は大地に体を預けてゆっくりと死を受け入れているのだろうか、それとも動かなくなった体でまだ思いは空に馳せているのだろうか。

 

気がつけば蝉の声は少なくなり、そしてまた夏が終わっていく。

 

 

 

 

朝の柔らかい日差しの中、突然目が覚めた。

電話がなってる。

着信画面を見てみると堀井くんからだ。

 

出てみると開口一番に堀井くんは「あのなー 俺、フラれてしまった。」

と目が覚める話を始めた。

2人が付き合ったと聞いてまだ1週間も経ってない。

声に元気がない堀井くんの話を一通り聞いて僕は「近々、飲見ましょう」とだけ伝えて電話を切った。

 

 

それから、友達たちと堀井くんの家に集まった。

僕らは堀井くんを慰めるようにして、少しイジリながら話を聞いていた。

フラれた理由としては天使が「ダイビングの仕事に集中したいからだそうだ。」

2人の仲だから僕は詳しいことは分からないけど、付き合ってみたら違ったんだろうか。

色々話を聞いて「まあ元気出せよ。」とそれしかかける言葉がなかった。

 

 

天使と堀井くんは急激に近付いてそして一気に幕が下りた。

一夏の短く濃い出来事だ。あの熱や浮かれた事なんて本当一瞬で終わってしまう。

終わってからいつも夏に戻りたいと思う。それでも秋が来て憂鬱な冬がくる。

 

堀井くんはフラれる前日には何か違和感を感じていたそうだが気には留めていなかったのをひたすら悔いていた。

その後悔から、飲み会の終盤に「人生はちょっとだけ間に合わない。」とこぼしていた。

僕らは「名言が出た!」とゲラゲラ笑っていると堀井くんも一緒になって笑っていた。

 

ただ、その笑顔はどこか哀愁を感じる。

もうこの夏は終わったんだと、理解したけど受け止められない。

力無い6日目の蝉のように。

 

 

 

 

 

沖縄本島一周。6日目。東海岸突入。

 

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沖縄本島一周を始めて前回の久高島に着いたあたりから東海岸側に入った。

僕の中で東海岸の特に北部はこの旅の中で楽しみにしてる。まだあまり人の手が入っていないワイルドな沖縄本島の景色を見れるからだ。

本島で有名なヤンバル地域も北部にある。最北端の辺戸岬をぐるり回ってからも北部を進むが西側からはずっと観光地や道路沿いを漕ぐ事になる。人工物の景色は大迫力の自然と比べてしまえば面白みにかけてしまう。

だから僕は東側の特に北部を楽しみにしている。

なので前回から東海岸に入った事に心踊っていた。

 

 

そして久高島の夜が更けて朝を迎えた。

外に出てみると相変わらず風が強い。

今日は近くにある津堅島をさらに超えて浜比嘉島まで行きたいと思ってた。

台風が3日後に本島の近くを通るので、浜比嘉島の知り合いの家に避難させてもらう事になっていたからだ。

まだ台風の影響はなく明日の夕方からだんだんと天気が悪くなっていくそうなので

海に出るとしたら今日しかなかった。

 

今日到着できれば、カヤック周りの片付けをして準備万端で台風に備えられる。

ダメなら津堅島か久高島のフェリーやバスを使って島に行く予定だったが、それは今回の旅のモチベーションを大きく崩す事になる。なので、なるべくカヤックで行きたかった。

浜比嘉島カヤックで渡れるか挑戦してダメなら明日朝一のフェリーで帰ろう。

朝の天気で海に出れないわけでは無いので、僕は海に漕ぎ出す準備をした。

 

 

 

久高島から隣の津堅島まで最短距離で約10キロ。僕がいるのは久高島でも津堅島とは反対側なのでプラス3キロ久高島沿いを漕ぐ事になる。

なので合わせて13キロ以上はある。

 

カヤックで進む自分の平均速度は時速約6キロ程度。単純計算だと2時間と少しだが、カヤック自体その日の天候にかなり左右されるので、今回は半分程度しかスピードは出ればいい方だろうなと考えていた。

 

風8メートル波は2.5メートル。

 

津堅島から久高島に向けて風が強く吹いていて風負けしても久高島に帰って来る予定だ。

ウネリが外洋から入ってきたとしても沖縄本島側に流されるだけなので問題なさそうだ。

少し不安なのは津堅島と久高島の境は深い場所になっていて大型船の航路にもなっている。

以前カヤックに乗っていたら目の前で米軍の潜水艦が浮上してきた人もいるらしい。それがちょうどここの話だった。

潜水艦を見てみたいが、真下から上がって来られたら怪我じゃ済まなそうだな。

 

以前にも津堅島と久高島の間はカヤックで渡った事もあり、そのときは2時間かからないで島渡りが出来た。

今回は向かい風や風波の影響もあるのでそれよりは時間がかかるのは予想できたが、どのくらい時間がかかるかはわからなかった。

考えすぎてもしょうがないので海に出てみる事にした。

 

僕がカヤックを漕ぎ出したのは漁港の真横で最初は堤防が風除けとなっていたが、そこを超えるといきなり風に煽られた。正直こんな風の中漕ぐなんて億劫でしかない。

最初は島沿いにカヤックで進んで津堅島に一番近いポイントから沖に出て島を目指す予定だ。

ただ、浅瀬に寄りすぎると風波やその跳ね返りの波が激しくカヤックを揺さぶる。

とにかく進みずらくなってしまうので、陸と一定の距離を取りながらカヤックで久高島沿いを進む。

津堅島までの最短距離まで来て僕は沖に漕ぎ出した。

 

沖に出るとウネリもかなり大きかった。

風と同じ方向から来るウネリ。風に煽られてウネリの波の先端が崩れて水が落ちてくる。

崩れた波はカヤックのデッキを走って僕の顔かかる。そしてそれを拭う。

分厚い大きな波なので1つ越える度に真上を向く。僕は空に向かって漕いでるのではないかというほどカヤックの先端は真上を向いていた。

それでも進むスピードは遅いが確実に進んでいる。

特に潮の流れは感じられず、少し安心した。

 

カヤックを生み出した人たちはこんな荒れている海で漁をしていたのだろうか。

しかも北の海で。

自分の乗っているカヤックが元々漁のために作られたのは知っていたが、旅の目的で使っている僕と生活のため漁をしている人達だと同じカヤックという乗り物に乗っていても見ているものは別物だ。

いったいその人達は何を見て感じてカヤックに乗っていたのだろうか。

 

久高島を出て2時間ほど漕いだあたりで遠くから30メートルかもう少しありそうな船が見えた。

徐々に近づいて来るその船は途中から進路を変えて僕の近くまで来てこちらの様子を伺っている様にも見えた。

僕が無視して漕いでいるとその船はすぐに行ってしまったが、海保の船とは雰囲気が違ったのでもしかすると自衛隊か米軍の船だったのかもしれない。

今回はこの船としか遭遇することがなくて潜水艦は見ることができなかった。

 

2時間半経ったあたりでまだ半分程度の距離までしか進んでなかった。

ちょうどこの辺りからまた脇腹が痛み始めてきた。

かなりキツイ。

精神的な疲労が大きくなりながらの残りの距離はかなりしんどかった。

 

津堅島の西側トマイ浜についたのはそれから2時間ほど経った後であった。

脇腹の痛みでかなり気持ちが疲れてしまい。津堅島の浅瀬についた頃には意気消沈していた。

かかった時間は4時間30分。カヤックの時速で換算すると約3キロ程度だ。

ヘトヘトになってカヤックを浜に上陸させた。

砂浜に足を下ろすと僕は水を飲んでそのまま寝っ転がった。

気がついたら時計が1時間進んでいてガッツリ昼寝をしてしまった様だ。

 

 

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時刻はまだ13時過ぎ。

浜比嘉島へはここから約7キロ程度だ。

ここから先はウネリの影響を受ける所も少ないのでそんなに時間はかからないだろう。

脇腹の痛みも引いたし2時間半程度で到着すると決めて僕はカヤックに乗り込んだ。

実際に2時間ほどで浜比嘉島に到着した。

特にこれといった出来事もなくただひたすらに漕いだ。

浜比嘉島に到着して僕の6日目の目標は無事達成できた。

「あ〜疲れたと」1人でボヤきながらカヤックをまとめて知り合いの家に運ぶ準備をする。

元々40キロ以上はある荷物が濡れてさらに重くなっている。

これを担いで知り合いの家まで歩いたほうが1日の中で抜群にキツかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄本島一周。4、5日目。久高島にて。

 

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4日目は風がさらに強くなったので、海に出るのは1日休みにした。

観光ビーチにいるので人目から遠ざかって岩陰に隠れて1日ぼけーと海を見て過ごしていた。

かなり退屈かなと最初は必要以上の暇に対しての不安があったが以外と1日が過ぎるのが早くて4日目は何もしていないのに気がつけば陽がくれていた。

 

5日目の朝、起きてもまだ風は強い。昨日より気持ちマシか同じ位かそんなもんだと思う。

それでも2日連続でボケーとしたら今日こそ暇に取り込まれてしまうと思い海に出てみた。

漕ぎ出してみると少し体もパドリングに慣れてきたのか向かい風にしてはカヤックが良く進む。

出だしは好調で良かったが1時間も漕いでいたら脇腹がに痛みが走リ始めた。

肋骨周りの筋か筋肉が軋んでいる感覚だ。

パドルを入れる度に痛みが増して集中力を削がれ気力を消費してしまう。

カヤックに乗っていてもランナーズハイと一緒でパドリングハイがある。

黙々と漕いでいて気がつくと1時間経ってる事もしばしば。こうゆう時は漕ぐという動作に没入している感覚なので、少しでも集中力が削られてしまうとそもそもの没入できない。

カヤックは気持ちがかなり左右する乗り物なので、しんどいと思ってしまうとみるみる進まなくなってしまう。

今回の旅は何度もこの痛みに襲われてしんどかった。

 

痛みに負けて上陸しようと浜を探したが、潮も引いてリーフでは波が崩れて浜には上陸できなくなっていた。

上陸できそうな所は観光ビーチでジェットが走り回っていて上陸できてもキャンプが出来そうな感じでは無い。

一度休憩したらもう今日はカヤックに乗らなくなってしまいそうなのでキャンプの出来そうな浜を探して泣く泣く先に進むしかなかった。

 

岸沿いの浅瀬では風波が特に目立ちやすく鬱陶しいので岸沿いを離れて沖にある島を目指して進む。

しばらく進むと小さな無人島が見えてきた。痛みもピークだったのでそこに上陸して休憩した。

人はいないが、桟橋や小屋などの人工物はあるのでシュノーケルのツアーなんかで使っていそうであった。後で知ったがコマカ島と言う島だった様だ。

天気が良かったのもあって、とても綺麗な島であった。

秘密基地的なサイズ感で誰もいないので、自分が占拠した様な気分になる。

俺の俺による俺のための王国。俺の俺による俺に振りかざす独裁政治。マイ国家首脳会談。

そんなふざけた事を考えていると気持ちだけが童心に帰った気がする。

周りを見ればアジサシが休憩所としてこの島を使っている。

カヤックや僕の頭の上を飛び回るアジサシ、ひたすら続く青い海、浜には海を進むための小舟。

僕の気持ちは未来少年コナンになった。なんかテンションが上がってきて元気がフツフツと湧いてくる。

 

 

今回目的にしている島はこの無人島からは目と鼻の先で1時間程度で到着出来そうだ。

時計を見ても3時過ぎ。少しゆっくりし過ぎても問題はなさそうだ。

タバコを吸って一息いれる。日差しで暖かくなった水を飲んでさっぱりとした。

しばらく写真を撮ったりしてからもう一度海に漕ぎ出した。

予想通り1時間ほどで今日の目的地にしていた島、久高島に上陸した。

 

とりあえず、島に着いたのでカヤックの荷物をまとめて島内を回ることにした。

テロテロの長袖に下は水着。不精ヒゲが生えてきてて汚い見た目だけど良いかと思いカヤックに乗っていた格好で島の中を散歩しているとすれ違いざまにいきなりおばさんに声をかけられた。

「お兄さん、これあげるから本当にタメになるから読んでみなさい。」

突然の事にあっけにとられている僕の手におばさんは自転車から本を取り出すと握らせてきた。

「え、なんですかこれ?」と僕が聞くと

「良いから騙されたと思って読んで。」何を聞いても読んで読んでとしか言わないおばさんは驚いている僕を置いて自転車に乗って行ってしまった。

僕は渡された本の表紙を見ると

タイトルにデカデカと強運 とだけ書いてある。

どう見ても怪しい。読むだけで運がドンドン良くなるそうだ。

作者は深見東州こと現代のダヴィンチ。よく電車の中吊り広告で見るやつだ。

正直この手のモノは胡散臭く思ってしまうので結局読まなかった。

 

僕は本の内容よりおばさんから見て僕はそんなに不幸そうに見えたのかという事実の方が衝撃だった。

確かにナリは汚いけどカヤックの旅は充実していた。

おばさんは善意でやってくれたのだろうけど僕としてはいらない荷物が増えただけで、ただのおせっかいだった。

たまに人の事を決めつけて自分の正義感を振りかざしている人がいるが、僕はそんな人が本当に苦手だ。

本人は善意でやってるからなおさらタチが悪い。

感覚的に突然人の家の中に土足で上がりこんで勝手に家具を整理される様な不快感がある。

理由を聞いても「こっちの方がいいから。」などと良かれと思ってやっているのだろうけど自分のしたい様にしているだけで善意で人を否定しているのだ。

僕は今の状態で良かったのに。

 

まあでも自分の幸せを人に委ねて本を読んだだけで幸せになりましたとか、笑っちゃうよね。

人の幸福論とか間に受けてる時点でそれはすがってるだけなんじゃないの?

ね?どうなの?おばさん。

 

 

 

そんな事を考えて煩悩だらけのまま久高島を散策した。

久高島は琉球神話の中で最初に祖神アマミキヨが最初に降り立った島として有名だ。

中でもイシキ浜と言われる浜はニライカナイの対岸と言われてどこまでも海が続いている。

一通り歩いて僕はカヤックを置いてる浜に戻った。

浜からは開けた景色を見ると夕日が沈もうとしていて空が焼けて綺麗であった。

カヤックの近くに60代くらいの骨太なガタイの良いおじさんとまだ幼稚園くらいの子供の2人が空を眺めていた。

僕も軽く挨拶をしながらカヤックから荷物を出して晩飯の準備をしていた。

そんな時におじさんが話しかけてきた。

「君、これでどこからきたの?」おじさんはカヤックを指差している。

糸満の方から出て本島一周中なんです」と答えると

「良いなぁ。懐かしいなぁ。」とおじさん

 

よくよく話を聞いてみると、おじさんが若い頃は高校のボート部の大会に本島一周があったそうだ。

おじさんはボート部の出で数人でボートに乗って3日で本島一周したそうだ。

ざっと考えても1日で100キロは進んでいるのでかなりのハイペースだったはずだ。

「お尻が擦れて痛くて痛くて。でも良い思い出だったな。」と遠くを見ながら遠い記憶に浸っているおじさんは漁師をしていて今だに海に出ているそうだ。

海に出る者同士、乗り物が違えど共感できる部分が多い。

海に出ていて不意に景色に圧倒されて言葉にできない感覚や怖い思いを知っているからこそ

口では話せない感覚の部分をお互いに理解しているからだろう。

おじさんと暗くなるまで話していたが出る内容はずっと船と海の話だった。

最後におじさんは「水浴びれねえだろ。」そう言って漁業組合の水道を好きに使って良いよ。と蛇口のハンドルの隠し場所を教えてくれた。

飯を食い終わって僕は真水で体を流してさっぱりさせると眠りについた。

夜風が気持ちよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄本島一周。3日目。観光ビーチとママ。

 

 

 

↓こちらの続きになっています。

 

 

humid.hatenablog.com

 

 

 

初めて読む方はこちらからどうぞ。

 

humid.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2日目の昼間は向かい風が強くて漕ぎずらかった。

おまけに潮も最悪で昼過ぎにはどんどん引き始めてしまう。先はどこまでも観光ビーチが続くみたいでどこに上陸しても一緒そうだった。無理してまた昨日のように潮待する羽目になるのも嫌なので仕方なく早めに切り上げて上陸した。

 

僕が上陸した浜は完璧に人の手が加わっていてリーフのゴツゴツとした岩肌が突然砂場に変わっている。その砂場とリーフの境がまっすぐ一直線にビーチの仕切りになっている波止場まで続いていた。

砂地の整備された中には一箇所だけ大きな岩が残っていてプールでよく見る銀色のハシゴが打ち付けてある。

梯子を登れば平らにしてある岩の上に立つ事もできるが、特別それ以上何があるわけでもなかった。

 

海を整備してこんなにプールっぽく出来るのかと驚いた。

人工的な海の独特な景色を面白く思って、つまんないなとも思った。

普段プールなどの何も気にする事がない場所で遊んでいたら海の中は怪我をしやすかったり時間帯によっては泳ぎづらかったりもする。

だからと言って整備してしまっては魚もあまり見れないしプールで泳いでるのと何も変わらない。

ここに来ている人達は海に行ったって事実があればいいのだろうか。

それとも単にあまり外遊びに興味がないんだろうか。 

 

僕にはわざわざここで遊ぶ楽しさはわからなかった。

 

 

 

観光客の人から離れるために僕はビーチの隅っこにある岩陰で日差しを避けていた。

まだ昼過ぎで何もする事もないので、潮の引いたリーフ沿いで釣りをしてみた。

日が傾き始めるまで炎天下と下からくる熱気の中で粘ってはみたけど、結局雑魚が何回か釣れるだけでいい成果もなかった。

日差しに焼かれた苦行であった。

諦めてリーフから浜に帰っている途中に岩の隙間にサザエを見つけた。

 

 

沖縄のサザエは朝鮮サザエと言って本州よりサイズが一回り小さく、貝の周りについているトゲトゲもほとんどない。

 

 

美味そうだけど、勝手に取ったらサザエはアウトだしな〜と思ってサザエはほっといて帰った。

そしたら、サザエが後から僕の後をついて来る。

浜についても僕のそばを離れないので、一緒にお酒を飲むことにした。

日本酒をサザエも喜んで飲んでいた。

「腹減ったし何かツマミが欲しいな。」と僕が言うと

サザエは「なら僕を食べてください。」と言い残して目の前の焚き火の中に飛び込んでしまった。

急いで焚き火から出そうとしても熱くてなかなか助け出せない。

火の中から引き上げたときにはサザエはブクブクと煮え繰り返りながら美味しそうな煙を立ちのぼらせていた。

せっかくのサザエの命だと無駄にはしないと思い大切に頂いた。

 

はっと気がついたら岩陰でうたた寝をしていたようだ。

やけに腹が減る夢だった。

 

 

時間的には日も暮れて晩飯時だ。

出発前夜から3日間ずっとインスタントラーメンを食べてその残り汁で米を炊いて食べていた。

流石にこの食事も飽きてきたので散策して飯屋を探すことにした。

 

 

 

海に出ると日除で着ている長袖は海水に濡れては乾いてを繰り返して白く粉が吹き始める。

塩の結晶だ。

朝から海にいると海風を浴びていた顔なんかも触るとジャリジャリとする。

そんな時間が3日も続けばそろそろ真水も浴びたくなって来る。

しかも飯屋に行くならなおさらだ。

海辺では汚い身なりでも気にならないけど、人の行き交う所に行くなら流石に気を使う。

幸いこの時間にはビーチに僕しかいなかった。

荷物に入れていた石鹸を持って近くの公衆トイレにで頭から足の先まできれいに洗った。

体を洗っている時に人が入って来なくて本当に良かった。

扉を開けて中に入ると、暗い公衆便所の中で全裸の泡まみれの男が小さい洗面台で一生懸命に体を流している場面と出くわす。しかも密室だ。こんな状況、恐怖以外の何物でもない。

僕も無防備な所を見られて驚いているし相手も用を足したい状況でまさか緊張が走る状況に陥ったら余計催すだろう。いや、もうそれどころじゃなくて引っ込むかな。

一番最悪なのは目の前で相手に漏らされるという状況だ。

僕も驚いて泡は流せないまま全裸で外に出るわけだし相手も2つの状況にビックリして涙を流しているだろう。そうなれば水に流そうとしても流しきれない出来事となる。

 

なんて最悪の妄想はまあ置いといて、無事僕は何事もなくトイレを後にした。

浜から続く一本道を歩いていくとなんか施設の一部を歩いていることに気がついた。

歩いているときはなんの施設なのか暗くてよく分からなかったけど、後で調べてみると

南部にある大きなゴルフ場だという事がわかった。そこの近くに有名な観光ビーチがあってそこに僕は居たようだ。

散々ビーチでひねくれた考えを持っていたけど、僕の方が場違いだった。

長い施設の道を歩くと30分ほどでやっと県道に出た。

あたり一面真っ暗でどこに向かって行けばいいのか全く分からない。

しょうがないので適当にブラブラ歩いているとコンビニを見つけたので中に入って店員さんにご飯屋さんを聞いてみた。

「近くでご飯屋さん知らないですか?」聞いても店員さんは首を傾げている。

質問してから沈黙が続くので言葉が通じないのかと不安に思うくらいここら辺では食堂とかがないらしい。

諦めて店を出ようとしたら店長っぽい人が1つお店を教えてくれた。

 

お礼を言いながらコンビニを出てファミチキサンドをかじりながら言われた方向に進む。

少し進むとだだっ広く続く電照菊畑の中から1つ明かりを見つけた。

店の前に立つと構えはどこから見てもスナックだった。二十歳過ぎでは飯を食いに行くにはなかなか入りづらい。

それと田舎のスナックには少し心当たりがあった。毎日決まった人が来てママの気を引こうと頑張っているのだ。

田舎の離島に住んで居た時に娯楽が無さすぎて地元のおじさん達がこぞって通っていたスナックがあった。ママの気を引きたいが為にお互い張り合っているのでおじさん達がやけにオシャレでビックリした。中にはチェーンの先に十字架がついたピアスをしている人もいてとにかくファッションレベルの高い田舎であった。

 

そんな激戦区だったらと想像すると、僕の様な若造がその戦場を切り抜けられるか不安もあるが飯も食いたいので恐る恐る中に入ってみた。

店内は離島のおじさん達のような熱量の感じられないおじさん達がチラホラいるだけで全然大した事はなく僕はホッとした。

カウンターの席に着くとママと年配のお姉さんが驚いた顔をして「こんな若い子がどうしたの?」とすかさず聞いて来た。

僕は「腹が減って飯が食べたいです」と続けるとママは「おまかせでいい?」と聞きながら僕の返事を聞かないで厨房に入ってしまった。

何が出てくるのかワクワクしているとドーンとチャーハンと揚げ物が目の前に置かれた。

見た目のインパクトと違ってそれが手作りの優しい味だったのを覚えてる。

一気に食べて平らげるとママ達も喜んでくれてサービスでビールまで出してくれた。

僕は久々に揚げ物や少しだけど野菜も食べれたのでとても幸せだった。

しかもキンキンに冷えたビールまである。

 

意外とスナックも悪くないなと思った21歳の夏であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄本島一周。2日目の朝。犬とオヤジと海と

 

話が続いているので、よければこちらからお読みください。

 

humid.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄本島一周を始めて2日目の朝。

 

天気も良く7月の蒸し暑い夜はなるべく風を通したいのでフライシートはつけないで、蚊帳同様のフルメッシュのテントの中で眠っていた。

 

どのくらい寝てたのか、遠くの方で何か聞こえる。

外の音が気になって意識が遠くの方から徐々に現実に引き戻される。

耳を澄ますと顔の近くでハァハァと吐息が聞こえる。寝起きでボ〜とする頭でゆっくり目を開けてみた。するとテントのメッシュ生地を挟んで犬が僕の顔を覗き込んでいる。 

「なんだ犬かぁ。」と半ば夢見心地で犬の顔を覗き込んでいると犬と目があった。

その瞬間、犬のテンションが一気に上がって地面を掘る動きでテントの生地を破ろうと前足で引っ掻き始めた。

 

まだ買ったばかりのテントで普段から傷がつかないように自分でも気を使っている物を傷つけられた怒りで一気に目が覚めた。犬に向かって大声を出しながらテントの内側から押し返しても何度も掘ろうとしてくるので、どうにかして追い払おうとテントの外に出ようとした時に『おい!!』と声がして犬がピタっと止まった。

クルッと方向を向けて犬が走っていく先には立派なビール腹が出たオヤジがいた。

 

オヤジを見て「いるなら早く止めろよ。fuck!!」と思いながら寝起きの気分も起こされ方も最悪でブスッとしながらテントの外に出てタバコに火をつけた。

空はまだ薄暗い。遠くの方は徐々に明るくなり始めていてかろうじてシルエットだけ見える感じであった。時計を見るとまだ朝5時を指している。もう1時間は寝る予定だったので更にムッとした。

僕は浜に腰を下ろしてもう少し明るくなったら荷物をまとめようと思いそれまでボーとしていた。

不意にオヤジの方を見るとオヤジもこっちを見ていた。軽く会釈をして少し空も白み始めたので荷物をまとめようとテントの中に入ったら、クソ犬がまた目の前に現れて嬉しそうにハァハァとこっちを見ていた。

またかよと嫌な気がしたが案の定さっきと同じ所をバリバリと掘り始めたので「やめろ!!」と犬の事をテントの中から押しながらオヤジの方を見ると何故か僕と犬の攻防を眺めている。内心びっくりしたが、オヤジの方を見ながら「止めて!止めて!」と僕は叫ぶとオヤジは「おい!」と大声で犬に声をかける。オヤジが呼ぶと犬がピタッと止まる。

犬がオヤジの方に向かおうと方向転換するその時、犬のオデコに何かマークが濃い赤で描かれているのが一瞬見えた。

 

その時、僕はなんのマークか気になった反面さっきから変わったオヤジと思っていた上に飼い犬のおでこに謎のマークを描いちゃうなんてかなりの変人か信仰心が強すぎる人なのではないかとオヤジを更に警戒した。

そんなタイミングでオヤジは僕に話しかけてきた。こっちは刺激しない様にどうにか相槌でその場を乗り切ろうとしていたが、オヤジは初対面の僕に突然自分の生い立ちを話し始めた。

いきなりだなと驚いてる僕をよそにオヤジの話は止まらず、僕はイヌのマークが気になってしまって、8割以上は話が入ってこなかった。チラチラ、イヌの方を見ても額がちょうど見えなくて、もどかしさと刺激しないようにとで悶々としていた。

 

オヤジに犬の額に描いてあるマークについて聞こうか迷ったが、もしそれで宗教とかの話を永遠されたらたまったもんじゃないなと思った。現に初対面の相手に自分の生い立ちを長々と話す様な人だ。どんな内容になっても話が長いに決まっている。

さっさとオヤジと別れてクソ犬のマークだけ見て退散したかった。

 

そんな事を考えていたら、犬は走ってドンドン遠くに行ってしまう。「頼む!クソ犬と思ってゴメン」と祈ったが全く願いは届かなかった。オヤジと2人きりになってしまってまた長々と生い立ちの話を聞いているとオヤジはこの辺りが出身で小さい頃からこの浜辺で過ごしていた事がわかった。

学生時代は学校が終わると友達と浜辺に集まってタコや魚を獲ってきてそれを肴に誰かが家から盗んできた酒を飲みながら毎日を過ごしていたそうだ。今ではイヌの散歩で毎朝来ているらしい。

僕はふらっと一泊しただけの浜だったけど、このオヤジにとっては昔から多くの時間を過ごしている浜辺であった。オヤジが遊んでいた若い頃を想像して目の前の海に照らし合わせてみた。そんな風景を妄想していると自分の今いる所が何か近い場所に感じる。

オヤジの見ている目の前の海と僕が今見てる海は同じ風景のはずだけど厚みが違う。その目線を少しオヤジに見せてもらった気がした。

今ではオヤジの孫が毎日友達とこの浜で遊んでいるらしい。

オヤジに対して構えていた力が少し抜けたが、まだイヌの事が気になっていて安心はできていない。僕は下がりかけたガードを再び構え直した。

 

話に間ができたので、犬のことを聞いてみた。名前はゴンタ、まだ若いオスであった。

名前が分かったので呼んでみる。ゴンタはクルリと振り向き、めちゃめちゃ嬉しそうにこっちに走って来る。僕もついにマークがわかるので嬉しかった。

待ちどうしい瞬間が近づいてくる。早くとにかく早くマークが見たい!近づいて来るゴンタは正直どうでもよかった。僕はマークしか見えてなかった。赤いマークが徐々に一歩、一歩と近づいてきて、ハッキリとマークが見えた!

 

 

え、え、どういうことですか?これなんの意味があるのかと驚きながらおじさんに聞いてみた。

「これ、郵便局のマークですよね・・・?」 

「そうだよ。」と当たり前の感じで言うオヤジ。

オヤジは続けて

郵便局員の飼ってる犬だから宣伝で貼っている。もっと世の中に郵便局を広めないといけない!」

 

え、郵便局自体を宣伝する必要あるっけ?イベントとかの宣伝なら分かるけど、日本人なら郵便局は知らない人いないんじゃ無いかな。

拍子抜けしたのと予想を軽々と超えてきたので緊張が解けてどっと疲れた。

気がつくと6時半も過ぎてオヤジもそろそろ仕事の時間だったそうなので別れ際に何かあったら連絡してくれと電話番号を教えてくれた。

次会う事があれば飯でも一緒に食おうと言っていたが、もう会うことも無いだろう。

それはオヤジも感じてたと思う。

 

初対面の僕のことを気遣ってくれて優しい変わったオヤジと人懐っこい犬だな。と僕も緊張が解けたし人の優しさに穏やかな気持ちになっていた。

僕も海に出る準備をしようと思ってテントの中に入って荷物をまとめていたら、テントに穴が空いているのに気がついた。

「あのクソ犬!」とイライラしながらテントの穴を直すのであった。

 

 

 

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