沖縄本島一周。4、5日目。久高島にて。

 

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4日目は風がさらに強くなったので、海に出るのは1日休みにした。

観光ビーチにいるので人目から遠ざかって岩陰に隠れて1日ぼけーと海を見て過ごしていた。

かなり退屈かなと最初は必要以上の暇に対しての不安があったが以外と1日が過ぎるのが早くて4日目は何もしていないのに気がつけば陽がくれていた。

 

5日目の朝、起きてもまだ風は強い。昨日より気持ちマシか同じ位かそんなもんだと思う。

それでも2日連続でボケーとしたら今日こそ暇に取り込まれてしまうと思い海に出てみた。

漕ぎ出してみると少し体もパドリングに慣れてきたのか向かい風にしてはカヤックが良く進む。

出だしは好調で良かったが1時間も漕いでいたら脇腹がに痛みが走リ始めた。

肋骨周りの筋か筋肉が軋んでいる感覚だ。

パドルを入れる度に痛みが増して集中力を削がれ気力を消費してしまう。

カヤックに乗っていてもランナーズハイと一緒でパドリングハイがある。

黙々と漕いでいて気がつくと1時間経ってる事もしばしば。こうゆう時は漕ぐという動作に没入している感覚なので、少しでも集中力が削られてしまうとそもそもの没入できない。

カヤックは気持ちがかなり左右する乗り物なので、しんどいと思ってしまうとみるみる進まなくなってしまう。

今回の旅は何度もこの痛みに襲われてしんどかった。

 

痛みに負けて上陸しようと浜を探したが、潮も引いてリーフでは波が崩れて浜には上陸できなくなっていた。

上陸できそうな所は観光ビーチでジェットが走り回っていて上陸できてもキャンプが出来そうな感じでは無い。

一度休憩したらもう今日はカヤックに乗らなくなってしまいそうなのでキャンプの出来そうな浜を探して泣く泣く先に進むしかなかった。

 

岸沿いの浅瀬では風波が特に目立ちやすく鬱陶しいので岸沿いを離れて沖にある島を目指して進む。

しばらく進むと小さな無人島が見えてきた。痛みもピークだったのでそこに上陸して休憩した。

人はいないが、桟橋や小屋などの人工物はあるのでシュノーケルのツアーなんかで使っていそうであった。後で知ったがコマカ島と言う島だった様だ。

天気が良かったのもあって、とても綺麗な島であった。

秘密基地的なサイズ感で誰もいないので、自分が占拠した様な気分になる。

俺の俺による俺のための王国。俺の俺による俺に振りかざす独裁政治。マイ国家首脳会談。

そんなふざけた事を考えていると気持ちだけが童心に帰った気がする。

周りを見ればアジサシが休憩所としてこの島を使っている。

カヤックや僕の頭の上を飛び回るアジサシ、ひたすら続く青い海、浜には海を進むための小舟。

僕の気持ちは未来少年コナンになった。なんかテンションが上がってきて元気がフツフツと湧いてくる。

 

 

今回目的にしている島はこの無人島からは目と鼻の先で1時間程度で到着出来そうだ。

時計を見ても3時過ぎ。少しゆっくりし過ぎても問題はなさそうだ。

タバコを吸って一息いれる。日差しで暖かくなった水を飲んでさっぱりとした。

しばらく写真を撮ったりしてからもう一度海に漕ぎ出した。

予想通り1時間ほどで今日の目的地にしていた島、久高島に上陸した。

 

とりあえず、島に着いたのでカヤックの荷物をまとめて島内を回ることにした。

テロテロの長袖に下は水着。不精ヒゲが生えてきてて汚い見た目だけど良いかと思いカヤックに乗っていた格好で島の中を散歩しているとすれ違いざまにいきなりおばさんに声をかけられた。

「お兄さん、これあげるから本当にタメになるから読んでみなさい。」

突然の事にあっけにとられている僕の手におばさんは自転車から本を取り出すと握らせてきた。

「え、なんですかこれ?」と僕が聞くと

「良いから騙されたと思って読んで。」何を聞いても読んで読んでとしか言わないおばさんは驚いている僕を置いて自転車に乗って行ってしまった。

僕は渡された本の表紙を見ると

タイトルにデカデカと強運 とだけ書いてある。

どう見ても怪しい。読むだけで運がドンドン良くなるそうだ。

作者は深見東州こと現代のダヴィンチ。よく電車の中吊り広告で見るやつだ。

正直この手のモノは胡散臭く思ってしまうので結局読まなかった。

 

僕は本の内容よりおばさんから見て僕はそんなに不幸そうに見えたのかという事実の方が衝撃だった。

確かにナリは汚いけどカヤックの旅は充実していた。

おばさんは善意でやってくれたのだろうけど僕としてはいらない荷物が増えただけで、ただのおせっかいだった。

たまに人の事を決めつけて自分の正義感を振りかざしている人がいるが、僕はそんな人が本当に苦手だ。

本人は善意でやってるからなおさらタチが悪い。

感覚的に突然人の家の中に土足で上がりこんで勝手に家具を整理される様な不快感がある。

理由を聞いても「こっちの方がいいから。」などと良かれと思ってやっているのだろうけど自分のしたい様にしているだけで善意で人を否定しているのだ。

僕は今の状態で良かったのに。

 

まあでも自分の幸せを人に委ねて本を読んだだけで幸せになりましたとか、笑っちゃうよね。

人の幸福論とか間に受けてる時点でそれはすがってるだけなんじゃないの?

ね?どうなの?おばさん。

 

 

 

そんな事を考えて煩悩だらけのまま久高島を散策した。

久高島は琉球神話の中で最初に祖神アマミキヨが最初に降り立った島として有名だ。

中でもイシキ浜と言われる浜はニライカナイの対岸と言われてどこまでも海が続いている。

一通り歩いて僕はカヤックを置いてる浜に戻った。

浜からは開けた景色を見ると夕日が沈もうとしていて空が焼けて綺麗であった。

カヤックの近くに60代くらいの骨太なガタイの良いおじさんとまだ幼稚園くらいの子供の2人が空を眺めていた。

僕も軽く挨拶をしながらカヤックから荷物を出して晩飯の準備をしていた。

そんな時におじさんが話しかけてきた。

「君、これでどこからきたの?」おじさんはカヤックを指差している。

糸満の方から出て本島一周中なんです」と答えると

「良いなぁ。懐かしいなぁ。」とおじさん

 

よくよく話を聞いてみると、おじさんが若い頃は高校のボート部の大会に本島一周があったそうだ。

おじさんはボート部の出で数人でボートに乗って3日で本島一周したそうだ。

ざっと考えても1日で100キロは進んでいるのでかなりのハイペースだったはずだ。

「お尻が擦れて痛くて痛くて。でも良い思い出だったな。」と遠くを見ながら遠い記憶に浸っているおじさんは漁師をしていて今だに海に出ているそうだ。

海に出る者同士、乗り物が違えど共感できる部分が多い。

海に出ていて不意に景色に圧倒されて言葉にできない感覚や怖い思いを知っているからこそ

口では話せない感覚の部分をお互いに理解しているからだろう。

おじさんと暗くなるまで話していたが出る内容はずっと船と海の話だった。

最後におじさんは「水浴びれねえだろ。」そう言って漁業組合の水道を好きに使って良いよ。と蛇口のハンドルの隠し場所を教えてくれた。

飯を食い終わって僕は真水で体を流してさっぱりさせると眠りについた。

夜風が気持ちよかった。