沖縄本島一周。3日目。観光ビーチとママ。
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2日目の昼間は向かい風が強くて漕ぎずらかった。
おまけに潮も最悪で昼過ぎにはどんどん引き始めてしまう。先はどこまでも観光ビーチが続くみたいでどこに上陸しても一緒そうだった。無理してまた昨日のように潮待する羽目になるのも嫌なので仕方なく早めに切り上げて上陸した。
僕が上陸した浜は完璧に人の手が加わっていてリーフのゴツゴツとした岩肌が突然砂場に変わっている。その砂場とリーフの境がまっすぐ一直線にビーチの仕切りになっている波止場まで続いていた。
砂地の整備された中には一箇所だけ大きな岩が残っていてプールでよく見る銀色のハシゴが打ち付けてある。
梯子を登れば平らにしてある岩の上に立つ事もできるが、特別それ以上何があるわけでもなかった。
海を整備してこんなにプールっぽく出来るのかと驚いた。
人工的な海の独特な景色を面白く思って、つまんないなとも思った。
普段プールなどの何も気にする事がない場所で遊んでいたら海の中は怪我をしやすかったり時間帯によっては泳ぎづらかったりもする。
だからと言って整備してしまっては魚もあまり見れないしプールで泳いでるのと何も変わらない。
ここに来ている人達は海に行ったって事実があればいいのだろうか。
それとも単にあまり外遊びに興味がないんだろうか。
僕にはわざわざここで遊ぶ楽しさはわからなかった。
観光客の人から離れるために僕はビーチの隅っこにある岩陰で日差しを避けていた。
まだ昼過ぎで何もする事もないので、潮の引いたリーフ沿いで釣りをしてみた。
日が傾き始めるまで炎天下と下からくる熱気の中で粘ってはみたけど、結局雑魚が何回か釣れるだけでいい成果もなかった。
日差しに焼かれた苦行であった。
諦めてリーフから浜に帰っている途中に岩の隙間にサザエを見つけた。
沖縄のサザエは朝鮮サザエと言って本州よりサイズが一回り小さく、貝の周りについているトゲトゲもほとんどない。
美味そうだけど、勝手に取ったらサザエはアウトだしな〜と思ってサザエはほっといて帰った。
そしたら、サザエが後から僕の後をついて来る。
浜についても僕のそばを離れないので、一緒にお酒を飲むことにした。
日本酒をサザエも喜んで飲んでいた。
「腹減ったし何かツマミが欲しいな。」と僕が言うと
サザエは「なら僕を食べてください。」と言い残して目の前の焚き火の中に飛び込んでしまった。
急いで焚き火から出そうとしても熱くてなかなか助け出せない。
火の中から引き上げたときにはサザエはブクブクと煮え繰り返りながら美味しそうな煙を立ちのぼらせていた。
せっかくのサザエの命だと無駄にはしないと思い大切に頂いた。
はっと気がついたら岩陰でうたた寝をしていたようだ。
やけに腹が減る夢だった。
時間的には日も暮れて晩飯時だ。
出発前夜から3日間ずっとインスタントラーメンを食べてその残り汁で米を炊いて食べていた。
流石にこの食事も飽きてきたので散策して飯屋を探すことにした。
海に出ると日除で着ている長袖は海水に濡れては乾いてを繰り返して白く粉が吹き始める。
塩の結晶だ。
朝から海にいると海風を浴びていた顔なんかも触るとジャリジャリとする。
そんな時間が3日も続けばそろそろ真水も浴びたくなって来る。
しかも飯屋に行くならなおさらだ。
海辺では汚い身なりでも気にならないけど、人の行き交う所に行くなら流石に気を使う。
幸いこの時間にはビーチに僕しかいなかった。
荷物に入れていた石鹸を持って近くの公衆トイレにで頭から足の先まできれいに洗った。
体を洗っている時に人が入って来なくて本当に良かった。
扉を開けて中に入ると、暗い公衆便所の中で全裸の泡まみれの男が小さい洗面台で一生懸命に体を流している場面と出くわす。しかも密室だ。こんな状況、恐怖以外の何物でもない。
僕も無防備な所を見られて驚いているし相手も用を足したい状況でまさか緊張が走る状況に陥ったら余計催すだろう。いや、もうそれどころじゃなくて引っ込むかな。
一番最悪なのは目の前で相手に漏らされるという状況だ。
僕も驚いて泡は流せないまま全裸で外に出るわけだし相手も2つの状況にビックリして涙を流しているだろう。そうなれば水に流そうとしても流しきれない出来事となる。
なんて最悪の妄想はまあ置いといて、無事僕は何事もなくトイレを後にした。
浜から続く一本道を歩いていくとなんか施設の一部を歩いていることに気がついた。
歩いているときはなんの施設なのか暗くてよく分からなかったけど、後で調べてみると
南部にある大きなゴルフ場だという事がわかった。そこの近くに有名な観光ビーチがあってそこに僕は居たようだ。
散々ビーチでひねくれた考えを持っていたけど、僕の方が場違いだった。
長い施設の道を歩くと30分ほどでやっと県道に出た。
あたり一面真っ暗でどこに向かって行けばいいのか全く分からない。
しょうがないので適当にブラブラ歩いているとコンビニを見つけたので中に入って店員さんにご飯屋さんを聞いてみた。
「近くでご飯屋さん知らないですか?」聞いても店員さんは首を傾げている。
質問してから沈黙が続くので言葉が通じないのかと不安に思うくらいここら辺では食堂とかがないらしい。
諦めて店を出ようとしたら店長っぽい人が1つお店を教えてくれた。
お礼を言いながらコンビニを出てファミチキサンドをかじりながら言われた方向に進む。
少し進むとだだっ広く続く電照菊畑の中から1つ明かりを見つけた。
店の前に立つと構えはどこから見てもスナックだった。二十歳過ぎでは飯を食いに行くにはなかなか入りづらい。
それと田舎のスナックには少し心当たりがあった。毎日決まった人が来てママの気を引こうと頑張っているのだ。
田舎の離島に住んで居た時に娯楽が無さすぎて地元のおじさん達がこぞって通っていたスナックがあった。ママの気を引きたいが為にお互い張り合っているのでおじさん達がやけにオシャレでビックリした。中にはチェーンの先に十字架がついたピアスをしている人もいてとにかくファッションレベルの高い田舎であった。
そんな激戦区だったらと想像すると、僕の様な若造がその戦場を切り抜けられるか不安もあるが飯も食いたいので恐る恐る中に入ってみた。
店内は離島のおじさん達のような熱量の感じられないおじさん達がチラホラいるだけで全然大した事はなく僕はホッとした。
カウンターの席に着くとママと年配のお姉さんが驚いた顔をして「こんな若い子がどうしたの?」とすかさず聞いて来た。
僕は「腹が減って飯が食べたいです」と続けるとママは「おまかせでいい?」と聞きながら僕の返事を聞かないで厨房に入ってしまった。
何が出てくるのかワクワクしているとドーンとチャーハンと揚げ物が目の前に置かれた。
見た目のインパクトと違ってそれが手作りの優しい味だったのを覚えてる。
一気に食べて平らげるとママ達も喜んでくれてサービスでビールまで出してくれた。
僕は久々に揚げ物や少しだけど野菜も食べれたのでとても幸せだった。
しかもキンキンに冷えたビールまである。
意外とスナックも悪くないなと思った21歳の夏であった。