アウトドアガイドの夏休み

1日目

 

沖縄の緊急事態宣言が発表されて仕事が無いので、最近は遊び呆けてる。

今年はとても暑い。梅雨も五月末だというのにもう終わってしまったんじゃ無いかと思うほど雨が降らない。山に入っても常にジメッとしているはずの土もパサパサの砂になってしまっていた。

3月末には過去最高気温を記録したらしい。

今年は段階を踏んで気温が暑くならずに、いきなりフルスロットルで夏が来たので夏バテがひどく島の人たちも体調を崩している人が多い。

僕も数日前までは食欲がなくなっていた。

空模様も夏真っ盛りで日差しが痛いくらい刺してくる。

こんな時は思いっきり外に出て、この気候に慣れるしか無いと思い数日野外で過ごしていた。

野営中は人の手が入っていない国内では珍しい地域が島内にあるのでそこに行っていた。

今回はその記録にしようと思う。

ただ、そこに行くまでの道中が大変であった。

初日の朝、一緒に行くナス君の家でみんな集合した。

今回は僕も含め3人の1泊2日で行く。メンバーはこんな感じだ。

 

ナス君 (僕が20歳の頃から付き合いのあるガイドの先輩、道草屋というツアーショップのオーナーをしている。面倒見のいいお兄さんという感じの7つ上の先輩兼友達。)

堀井君 (若くして出版社から図鑑の製作依頼が来ている生き物や植物のエキスパート、実家が動物園という珍しい家庭環境に育つ。小さい頃は怒られるとワニの水槽に投げ込まれてたらしい。カンガルーの中では最大になると言われる                                                ア    アカカンガルーとタイマンで戦った経験あり。ぼくの2歳上のお兄さん)

ぼく  (ガイド6年目の25歳。カヤックが大好き。なんならそれしか知らない。趣味は料理や映画鑑賞や漫画鑑賞。お酒が好きで記憶が飛びやすい。湿度100%というブログを掲載中)

 

予定より10分早くナス君の家に行くともう2人はそろっていた。ホリイ君は意気込んで元気がみなぎっていた。相反してナス君はテンションが低くて聞くと二日酔いらしい。そんな飲んで無いそうだが、夏バテは体調を崩しやすいので辛そうだ。

ナス君の車に荷物を載せて、台車にカヤックを載せてみんな準備バッチリ!それでは早速出発地まで移動し始めた。

車の中ではホリイ君が最近知り合いになった人が、持っているカヤックがナス君の欲しかったカヤックと一緒で乗ってないなら譲ってもらえないかなという話題で盛り上がっていた。

途中からカヤックの持ち主が廃村になった所に3年ほど住んでいたという話に変わって、さっきまで盛り上がっていた雰囲気が少し沈んだ感じがした。

僕らが住んでいる島は昔は最低でも3~4は集落が多かった。それが近代化が進みライフラインの近くの集落に合併して消えたり、人口減少で自然と消滅していった。マラリアや食糧不足、災害も関係していたりして暗い過去もあったりするみたいだ。

持ち主が住んでいた集落はまだ跡がはっきり残っているそうで、お墓なんかも残っている。廃村になったのも住みやすい集落に合併したそうだと聞くが、やっぱり人がいた所では住んでいた人たちの記憶なのか、不可解な事が起こるみたいだ。

夜中、その廃村をまわるとおばぁが徘徊していたり、急に声をかけられたりするそうな。僕はさっきまでカヤックの話で盛り上がっていたトーンでホリイ君が話すその話が声色と内容が一致して無い感じがしてどんな話なのかわからず「それは怖い話ですか?」と聞いたら無言でホリイ君が鳥肌を見せてきたので理解した。『浜で急に声をかけられても絶対に振り返ってはいけないよ。』と真面目な顔で言うホリイ君がなんか怖くなってぼくもゾワゾワと鳥肌が立ってきていた。

普段、勢いのある攻めの姿勢のホリイ君がオバケが怖いと知ってそのギャップが面白くてすぐ鳥肌も収まったが、今回の旅は行ったことのないルートから島の反対側を攻めると言うルート上の新しい開拓をメインに置いていたがそれと一緒にキャンプ予定地から近くの集落跡を探索するのも1つの目標になっていたので、どこか拭えない悪寒が僕の中でずっと残っていた。

そんな話をしているうちに僕らは出発地に到着した。

荷物やカヤックを下ろしながら、みんな最後忘れ物がないか確認していたら、僕は飲み水のボトルを1つ車の中に忘れたことに気がついた。

ナス君とホリイ君にいじられて、やっちまった~と思いながら、すぐそこの売店で買えば済む話なのでそれくらいでよかったと胸をなでおろした。

売店で水買ってくるので、何か欲しいものありますか?」と2人に聞くと

ナス君はポカリ2本買って欲しいそうで、ホリイ君は特にいらないそうだ。

売店に入り、ナス君のポカリを買って、自分の水も買ってみんなのところに戻ると、ナス君はライフジャケットを忘れていた。

自分より大きなものを忘れた人がいて僕は内心ガッツポーズをしていた。彼こそ今回の旅のMr.forgetこと忘れ物大臣である。

出発地のすぐ近くがナス君の元々働いていたツアーショップなので、そこから借りてくると言う事で、笑い話で話も済んだ。

荷物も詰め終わって、時刻は10時、僕らはカヤックに乗って出発した。

 

今回はカヤックで川の上がれる所まで向かい、そこからは徒歩で山を越えて、島の反対側の海岸線に降り、目的地の浜まで岸伝いに移動して拠点となる浜まで向かう予定だ。

ホリイ君曰く出発地から続いている崖沿いの一箇所に食虫植物の苔がびっしり生えているところがあるそうなので寄り道がてらみんなで探した。

僕もその苔は川の上流で岩に生えているのを見た事があるが、海沿いの塩っ気があるところに生えているのか不思議であった。本当にあるのかと探していると、崖のくぼみに真水がチョロチョロと流れている場所が何箇所かありそこには苔が濃く生えている。苔をたどりながらカヤックを漕いでいると噂通りびっしり食虫植物が生えているところがあった。

赤く中心にかけて放射線状に伸びている見た目のその苔はケツの穴に似ていることからコウモンセンゴケと言われているらしい。というのは嘘で見た目は肛門っぽいけど本当の名前はコモウセンゴケ。僕らはカヤックを降りてしばらく写真をとっていた。

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写真も撮り終わって、満足した僕らは川の河口目指して進み始めた。時刻は10時半

漕ぎ出して少しすると向かい風が強く吹き始めていた。風は10メートル位は吹いてそうだった。

この時期は例年より早いが梅雨明けの強い南風が吹く日が続いていた。天気は濃い青空に刺すように強い日差しと重く漂っている雲のせいで、空が近く見えて夏真っ盛りの空模様である。

1時間ほど漕ぎ、普段より時間が時間がかかりながら川に入れた僕らは、風から逃げるために支流の中に入って一旦休憩をとった。時刻は11時半

支流の中は二股に別れていて、ナス君曰く一周して反対から帰ってこれるようなので、左側に入って右川の川から出てこようとカヤックで行ってみたが倒木に邪魔されて途中までしかいけなかった。

しょうがないのでマングローブにかこまれた浅瀬でエナジードリンクを飲んでのんびりと過ごした。その後来た川を戻って右側の川を行ける所まで行ってみる事にした。

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そんなことをしていたら、支流で時間を取りすぎて本流に戻り目的のポイントを目指し始めた頃には12時半ごろになっていた。ちょっと休憩するつもりだったけど1時間くらい支流を楽しんでいた。

また強く吹く向かい風の中を50分ほど進むとカヤックで上がれる終点まで到着した。

なんやかんやで出発してからカヤックの目的地までは3時間くらいとなかなかの時間がかかってしまって、時刻は13時半近くになっていた。

野営地の近くにある、集落跡地に行けるかは時間的にかなり怪しくなっていた。

 

カヤックを流されないように川辺から森の中まで上げて、置いてく荷物と持って行く荷物を分けて次の山登りに備えた。小休憩をとって軽く昼飯を食べた。

出発前はナス君がゴープロを回しながら意気込身をそれぞれ映像に残して張り切りながら14時前に山を登り始めた。山登りといってもとにかく獣道のような急坂を登るのでハイキングのようなものでなくて、場所によっては四つん這いで登るキツイの一言に限る坂であった。

あんなに威勢が良かった3人は全員が汗が噴き出してヒーヒー言いながら登っている。大学生がさっきまでイキっていたような変わりようだ。

それでも一気に20分くらい登ると他の道との合流地点に着き、そこからは山の反対側に降りるだけなので標高も100m位の山道であった。

下り道はそれぞれがまたイキリながら、ホリイ君にインリンオブジョイトイのような形の木があると場所を教えてもらったり、茂みから吠えて威嚇してきたイノシシに威嚇返しするナス君が見れたり僕は冗談をいう余裕まであった。一気にみんな元気になってワイワイとしながら山を降って島の裏側に出るのが楽しみで仕方なかった。

40分ほど歩くと下り道も終わりに差し掛かり、僕らは藪の中をかき分けながら先に進む。いきなり開けた視界には人の背を軽くこす岩がゴロゴロと無造作に並び、それに打ち砕かれてできた白波。空よりも濃い青の海がどこまでも広がっていた。岩が並ぶ海岸線沿いの先には今回キャンプ地の予定をしている浜も見える。

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時刻は15時前、目の前の景色に興奮しながら、山を越えて島の反対側に来た事を実感し始めた。また休憩を挟み、僕とナス君は写真を撮って、ホリイ君は自前のドローンを飛ばしていた。

前にホリイ君がドローンを飛ばしたのを見た時は、木の近くスレスレを飛ばしていたら見事にクラッシュしてプロペラやパーツが吹っ飛んでいたがそれを見ながら本人は、「ドローンは責めなきゃダメですよ!」と言い切っていたのを覚えている。今回もホリイ君の攻めの姿勢が見れるかと楽しみになった。

海面ギリギリを飛ばしているのを見てぼくはヒヤヒヤしたけどさすが攻める男。波の立つポイントに低空で近づきリーフ沿いの波に突っ込んだ。飲まれた!と思ったが、スレスレで急回避、高度を上げて見事避けた。

一拍ズレたらドローンは海底に沈んで行くところだったが、ホリイ君はギリギリを楽しんでいるようで流石攻める男であった。

僕らが森を抜けて出た所は逆三角の形をした湾の端に当たるポイントだ。今回キャンプ地にしようと思っている所は湾の一番奥に当たる三角形の先端の部分だ。浜沿いは砂浜の上に巨大な岩が積み上がっており平坦な所は見当たらない。

大潮で水位が大きく下がる日であれば、干潟になったリーフの平らな所を歩いて楽々進めるのだが今回は小潮で水位もそんなに下がらないので、岩を超えながら進んでいかないといけない。

おまけに五月なのに日差しが強いせいで僕らの進む先は悪路であった。

15時ごろの日差しは殺人的だ。

沖縄の畑仕事をしている昔の人たちは昼間の日差しが辛いので、早朝と夕方だけ畑に出ていたと聞いたこともある。その位炎天下の中に居続けるのはキツイことなのだ。

最近の人たちは昼間でも働いているのでタフな人が多いと思うが、僕は畑仕事をしたら絶対ぶっ倒れる気がする。

 

そんな中歩き始めた僕たち。最初は目的地も見えているので、テンションも上がって足取りも力強く大きな岩を登っては降りてを繰り返しながら進んで行くが、15分位経ったあたりから熱が体にこもっているのがわかってからが辛かった。

今卵を体に落とせば温泉卵位にはなると思う。そのくらい体が熱かった。暑さで頭も回らないのに足元は歩きづらいので、なかなか堪える。

だんだん楽しいよりキツイが自分の中では大きくなってしまって、ただ辛いだけになってきた。帰りたいしダルい。内心、自分が2人より体力が無いのかなと少し心配になっていた。

歩き始めて30分くらいした時に目の前に大きな岩壁が立ちはだかり僕らはどうしようかと立ち尽くした。

かなり前に2度通ったことがあるが、山側から回り込んで行けた気がするとナス君に伝えて荷物を置いて見に行こうと話になった。

ただキツくてとりあえず休みたいね。とみんな意見が一致したので、どこで休むかと思っていたら岩と岩の間にちょうどいい日陰を見つけたので、僕たちはそこに荷物を置いて一目散に海に飛び込んだ!

体にこもっていた熱が一気に冷めるのがわかる。もう気持ち良すぎて誰も海から出れなくなってしまった。

またこの後同じ灼熱の悪路を歩くのかと思うと考えたくない。ホリイ君が「途中帰りたかったね」って言っていたので同じ事思っていたなとホッと胸をなでおろした。

なんでホッとしたかというと僕だけ夏バテみたいになっていたらこの後の道のりはただの荷物になってしまうし、ガイドとしても自己管理が出来てないなんて恥ずかしすぎるからだ。

海から出れずに40分くらい休んだ。歩いているよりも休んでいる時間が長くなってしまった。

この休憩で僕達は少し希望が出ていた。僕らが休憩していたポイントは山から海岸線に出た時に大体目的の浜までの3/1あたりなのを見ていたからであった。

もう少し時間がかかるかと思っていたので、かなり気持ちが楽になった。

クールダウンできたので僕らは先に向かう事にした。前に迂回したルートも通れて大きな岩壁も迂回することが出来た。

しばらく歩いていたが、40分くらい歩くとバテてしまって、また20分ほど岩陰に隠れて休んだ。

3人で話していると、今年は雨が降らなくて途中にある沢も枯れてしまったかも知れないという話になった。渇水も不安だったので水は1泊2日分も入れてある。

ただ、真水が浴びれるだけでとても気持ちがいいのだ。それを道中楽しみにしていたので少しがっかりした。

その後も、もちろん歩くが足取りが少し不安定になった気がする。体もだるくかなり疲れていた。そしたらホリイ君が急に『沢ありましたよ!」と大声を出してくれて僕らもホリイ君のみている方向を見ると

崖の上から沢がチョロチョロと出ているのが見えた。

僕らは一気に元気になって沢を目指してそして満足いくまで浴び続けた。とにかくオアシスとはこの事かと思うほどの気持ち良さで僕らは無心で浴び続けた。

水量も風に吹かれてなびく程でシャワーを浴びるより少ないがその時は十分であった。

時刻も5時を過ぎて今日集落跡地を探すのは絶望的になっていた。目的地まではもう少しなのもわかっていたので、よっしゃ頑張ろう!とみんなで元気を出しながらまた沢を後にして歩き始めると、目的地が目の前だった。

「おお!」と声が上がり元気が出て来た。まだ距離があると思っていたので、かなり気が緩んだ。

ただ、目的地前に一箇所腰まで海に入りながら歩く場所があり、先に行った2人は途中でヌメッた岩で足を取られてツルツルと踊るようにカメラなどの大事な機材が入ったバックを頭に乗せて死守していたのを見てぼくはめちゃゆっくり安全そうな所を歩けた。前の2人の犠牲のおかげだ。

目的地の浜に入って足取りも軽いが砂に足が埋れてそれがまた疲れた足腰に負荷をかけて疲れる。少し進むとナス君が「あ!」と大きな声を出して指を向けてる!ぼくとホリイ君はその方向を見ると、そこには1.5mはある大きなアオウミガメが浜に打ち上げられていた。死んでしまったのだろうか。それぞれ写真を撮っていたらホリイ君が動いたと言うので、よーく見てるとヒレがピクピクと動いてる。

恐る恐るホリイ君がカメを軽くこずくと、さっきまで死にそうだったカメが急に動き出して海に帰り始めた。ただ、10メートルくらい進むと急に動きが止まって静かになってしまった。

みんなで「弱ってたしダメだったかー」なんて話をしていたら、いきなり同じ大きさのカメが現れて弱っているカメに乗っかった!僕らもそれでわかった。今繁殖期で交尾中だったんだと。あれ弱ってるんじゃなくてヤリ疲れだと。

腰くらいの水深で後尾が始まっているので、僕らもカメラを片手に水に浸かりながら写真を撮りまくった。カメも更に1匹増えてメスを取り合っているようだった。更に1匹増えて3対1の交尾になった。

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カメも1.5mくらいあると顔もデカイ。大型犬と同じくらいのサイズはあった。「あんな口でもし噛まれたら怖いですね」とホリイ君に言ったら「足取れるだろうね」と返って来たので、刺激でもしてしまったら怖いなと思いぼくは2メートル位は距離を開けていた。ホリイ君はぼくの質問に答えながらズンズン近ずいて30センチ位の距離まで近付くので僕もナス君も「ホリイ君凄いな」としか言えなかった。

さすが図鑑を出している先生で動物を前にすると顔つきが変わった。躊躇なく攻めまくりだ。ぼくとナス君は敬意を込めてホリゴロー先生と呼ぶ事に決まった。動物博士でムツゴローが出たのと実家もホリゴロー王国みたいな感じでしょと言うテキトーな理由だがいいアダ名が出来てよかった。

カメ達も徐々に遠ざかってしまい僕らも岸に上がり残りの距離を歩ききった。

野営地ポイントに着くとみんなバックを投げ捨てて力尽きたように腰を砂の上におろした。みんな歓喜の声をあげる余裕もなくただ燃え尽きたように疲れていた。カヤックに乗っていたのが何日か前のような気がするほど、

海岸線を歩くのは果てしなく長く感じられた。

浜に着いた頃にはもう18時を過ぎていて、海岸線だけで休憩も入れて3時間以上かかってしまった。これは大変だと言うことで帰りは朝一で陽の柔らかい時間に帰ることにした。

集落跡地はもう行く時間もないのでみんな諦めた。

ビールとかでお祝いをしてすぐ飲みたかったが、それより水が飲みたかった。そんなタイミングでとホリイ君が粉のポカリを出してくれて1リットルの水に溶かして3人で回して飲んだ。

するとかなり体が楽になった。すごいぞポカリ!ありがとうホリイ君!

ポカリパワーでみんなそれぞれ寝床の準備をして焚き火の薪を集めた。19時も過ぎて薪に火を付けてひと段落した。1日の最後。ピンク色の空を見ながらビールの蓋を開けた。

気がつくとナス君が素っ裸になっていた。本人曰く股擦れが痛くてズボンが履けないらしい、後は人も俺らしかいないから服着る必要もなくね。との事であった。全裸なのはほとんど後者の理由だと思うが、この夜は焚き火に照らされたナス君がこっちを向くたびにリトルナスもこっちを向いてくるので、どっちに話しかければいいのか正直わからなかった。

20時近くなっても僕らのいる島はまだ薄明るい。5月の梅雨時期になると羽アリが日暮れごろの1時間だけ尋常じゃないくらい湧いて出てくる日がある。丁度この日も羽アリが飛び始めて、しかも焚き火の明かりにつられて集まって来た。

次々に火にめがけて飛び込んで行く羽アリ。薪を足してさらに火を上げて、僕らは焚き火から離れてみた。そしたら光に集まる羽アリから逃げられるかと思ったが、どこに行っても体について払っても払っても新しいのが付いてくる。

もう耐えられなくて僕らはビールを片手に海に逃げ込んだ。流石に水辺には羽アリも寄ってこないのでしばらく肩まで浸かりながら羽アリが落ち着くまで過ごすことにした。

波に揺られながら片手にビールを持って反対の手でつまみを持って陸に行きたいけど行けないもどかしさと、暗い中海に浸かってビールを飲んでいる事が新鮮で段々と面白くなってきた。

3人で話していた時に「明日帰るのもったいないね」と話になった。集落跡地に行けても無い事もあり今回の目的には程遠い。僕とホリイ君は2連休しか取ってないので、明日散策して遊べるのは3連休のナス君だけであった。

「せっかくここまで来たのに今更中途半端に帰れるか!」とテンションが上がって僕とホリイ君は職場のボスに連絡して休みを1日延ばしてもらえるか連絡してみる事にした。1人でも帰らないといけなかったらみんなで帰ろうと話が決まった。この日は5/21日ちょうど沖縄では緊急事態宣言が発令された日の夜だった。早速連絡しようと海を出るといつのまにか羽アリもいなくなっていた。

 

すぐさまラインを一言入れて返信を待った。ホリイ君は即答で職場からokがもらえていけど僕はまだ既読もつかなかった。

気長にお酒を飲みながら返信を待った。飲みながら色んな事を話したと思うのだが、飲み過ぎてあんまり覚えていない。

気がついたら焚き火の横に引いたマットに横になっていて長かった1日が終わりを迎えた。

 

 

 

 

2日目

 

徐々に暗い空が水平線から徐々に濃紺に変わり遠くの空が白んできた。

急に目が覚めて最初に視界に入った空の色が綺麗でまだ夜が終わりかけくらいの明るさの中ウトウトしながら徐々に明るくなる景色をボ~と眺めていた。

時計を見ると5時40分。まだ起きなくていいやとグダグダしていた。

僕しか起きてないので、暇で仕方ない。2人はタープの下に眠っていてホリイ君はハンモックで、ナス君はインナーテントに眠っていた。

暇だから2人の寝てる写真を撮ってみたり、近くにカバマダラという蝶が群れていたのでその写真を撮って暇を潰した。

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思い出してラインを確認してみたけど返信はきていなかった。

7時くらいに2人も起き出してきたけど2人とも夜寒くて夜中に何度も目が覚めてしまって疲れが抜けてないらしい。

ナス君がゆっくりコーヒーを淹れてくれて、僕らはあったかい飲み物を飲みながら今日どうしょうかと話をしていたら、僕のラインに返信があった。

携帯を見るとボスから「どーぞー」とだけ返信が入ってきた。

これで1泊2日から2泊3日に急遽変更になり、今日は集落跡地をまわれる!

みんなで喜びながらちゃちゃっと朝飯を済ませた。器を洗おうと足取り軽く波打ち際に行くとまさかの昨日のアオウミガメが3メートル先くらいにいてギョっとした。

こんなに近くにいるのかと少し驚きながら、2人の元に帰った。

9時くらいには出発する予定で今の時刻は8時過ぎ、ホリイ君と少し海に入ってみようとシュノーケルを持って海に入った。

海に入って10メートルもしないくらいで1メートルは超えているカスミアジを発見!岩の下には同じくらいのバラハタもこちらを伺っていた。

人をあまり見ないからかあまり逃げないカスミアジはゆっくりと距離を取り始めて深みに移動している。

ホリイ君はテンションが上がり近くで観たい一心で、前に居る僕を押しのけてカスミアジに近づいていった。押された僕は流石ホリゴロー先生と意欲に感心してしまった。

カスミアジも行ってしまい、僕は海に入る時に持ってきていた見釣君を出した。見釣君とは20センチくらいのプラスチックで出来た小さな釣竿。海の中で魚を見ながら釣るおもちゃの様な物だ。

ホリイ君が指をさしている方向のサンゴ礁の隙間に隠れて顔だけ出しているハタがいた。顔の前に糸を垂らして餌を近づけてみると少し興味を出して餌を追いかけ始めた。

これはイケるんじゃないかと思っているとパクっとハタが食べたので一気に糸を引いて針を掛けようとしたが、針からはみ出てる餌だけを喰っていたので針は掛からず、ハタも穴に逃げてしまった。

ホリイ君と僕は海から顔を出してケタケタと笑いながらお互いに見釣君の可能性に声をあげて興奮していた。

今回魚突きが趣味のホリイ君はモリをカヤックに乗せて持ってきたが、歩きでは長モノは荷物になるので断念していた。

僕らは海から上がりナス君に見釣君の興奮を伝えながら午後からはどうにか魚を3匹は取ろうと盛り上がった。

もともとが1泊2日予定だったので食料はそんなに持って来ていなかった。米など主食はあるので今日獲物を獲らないと晩飯がかなり貧相になってしまう。なので獲物を手に入れるのも今日の日課の1つになっていた。

 

時刻も9時を迎えて各々途中の昼飯、集落跡地近くで水を採るためのボトル、カメラを持って昨日きた海岸線とは反対側の海沿いを歩き始めた。

今日の目的は集落跡を見つけることだ。更に1泊延長したので食料と昨日暑過ぎて想像以上に消費してしまった水も汲みに行かないといけなかった。

なので今日の予定としては、午前中は集落跡地、後はその先に普段は滝があるのでそこで水を汲みに行く。午後は魚を獲って食料確保をする予定だ。問題は渇水で滝があるかがわからないということだ。あるかどうかは祈るしかない。

無ければ、昨日の沢まで歩いていかないといけない。それは最悪であった。

どれだけ遅くても15時には戻ってこようと決めて時間を見ながら歩いた。キャンプ地の浜を中心に末広がりに海岸線が広がり両端に岬が見える。海の方向を向いて左が昨日山を越えて降りた岬、右が普段は水が流れている滝があり少し奥が岬になている。

僕らは海を挟んで対岸に見える海岸線を見ながらだいたい自分たちの来てる距離を見ていた。

やっぱり大きな岩が転がっているので、大した距離でないのに時間と体力がかかる。昨日と違うのは午後の強い日差しではなく、まだ日差しがそこまで照りつけてこないのにかなり救われた。

歩き出して30分程度でキャンプ地を出て2つ目のビーチについた。ビーチから山側に少し開けている所があり、誰かが目印に漂流物で目印を作ってくれていた。

山を見ていても、ここのビーチの近くだけクバの木がたくさん生えていて森の色が少し変わっているので目立っていた。沖縄ではクバは日除けの傘や団扇など生活に身近な植物なので、それが沢山生えている所には人の営みがあったかのかもしれないと言う訳で僕らは目印の所から山側に入ってみる事にした。山の中は普段沢になっている様で水の流れた跡があり、それをたどって近くに集落跡がないか探してみた。10分ほど進むと途中からは藪が濃くなり進みづらくなってしまったため、キャンパーが水を汲む為のポイントだっただけかと次の入り口を探しに来た道を引き返した。浜の近くまで降るとナス君が酒ビンを見つけた。しかもただの酒ビンでなくて、古い酒ビンであったのでそこから酒ビンを中心に沢跡を少し逸れてみる事にした。少し進むだけで更に酒ビンがいくつか転がっていた。

これは当たりかもしれないと、奥に進んでいくと土に半分埋もれた石垣が出て来た。古い素焼きの植木鉢なんかも落ちていたが、もうほとんど集落跡は朽ちてしまっていた。

ここは1910年代には人が他所に出て行ってしまった集落なので、もう110年も前の跡地だ。こんな植物の成長も早く、台風なんかもモロで喰らう海の近くでは逆によく残っていた方なのかもしれない。

ある程度みて石垣は何箇所かあったが、それ以上は何も見ることはできなかった。

山に入って1時間ほどで浜に戻って来た。

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思っていたよりも集落跡は見れず肩透かしを食らった感じであった。ナス君は出発前に「集落跡を見つけたら復興しようぜ!俺公民館長やるわ!」と声高らかに宣言していたのに建物ひとつ見当たらなかったので

少し悲しそうな顔をしている。僕は「スーパーの店長になります!」ホリイ君は「ガソリンスタンド作りますよ!」とナス君に乗っかって言っていたけど集落の長が匙を投げてしまっては僕らの夢もそこで途絶えてしまった。

結局、今日の目標の1つ集落跡地散策は終わり、次の目標の水汲みに向かった。

道中、山側に大きく森が開けた場所があったが、暑過ぎて早く水を汲んで帰りたいのでここはまたの機会にという事になった。

砂浜に足を取られて岩を超え途中で休憩も挟みながら1時間ほど歩いて滝のポイントが目の前に出て来た。岩肌が見えるがまだ滝が見えない。ヒヤヒヤしながら進んでみると普段滝が流れているだろう苔が死んで変色した岩肌が見え始めた。一歩ずつが答えに近づくほどに重い一歩になって行く。早く確認したい僕は先頭を歩いていたナス君を追い越して先に見に行った。

いくつか岩を超えると、隅っこに水が流れているのが分かった。喜びより安堵して安心した。2人に伝えようと後ろを振り返ると「沢あったか?」とナス君が聞いてきた。「ありました!」と口を開こうとしたが、僕が伝えるのと直接見てもらうのだと、どちらの方が喜びが大きいか気になってしまって、無言のままずっとナス君の顔を凝視していた。

僕が黙っているのを見て察したのか、「あったらしいよ!」とナス君がホリイ君に伝え2人は喜んでいた。ナス君は何も言ってないのになんんで分かったんだろうか?と喜ぶ2人を見ながら僕は沢があった事を素直に喜べなかった。

とりあえず、残り少ないボトルの水を補う為にバックを降ろして急足で沢の元に向かった。

普段水が溜まっているであろう所はもう干上がってしまっているので、ちょろちょろと水が流れている所に頭を突っ込んでピャー!!と叫びながらみんな気持ち良さそうに水浴びを楽しんだ。ボトルにも水を入れる為にフタを開いて、降り注ぐ水をボトルに貯めて気づいた、「あれ、水黄色くない?」一番乗りで水を組んでいる僕がボトルを覗いたまま固まっているのを見て2人は「どうした?」と聞いたので、「水が黄色いです」と伝えると「大丈夫!飲めるよ」

と勝手なことを言ってくる。恐る恐るボトルに口をつけて一口飲んでみたが、臭さとかは特になく飲むのは問題なさそうであった。

ただそれ以上飲まない僕を2人はキャッキャ笑いながらビビリ扱いするのであった。

僕の次にホリイ君が水を汲んで一言「思ってたより黄色いね。」と言うので(ほら見たことか)と僕は内心この人は飲まないだろう。さっき煽ってきたのでビビりの称号をこの人に擦りつけてやろうと思っていた。

なんでホリイ君が水を飲まないと分かったかと言うと、今回の旅の少し前ホリイ君は40度近い熱を出して1週間ほどダウンしていた。僕らが住む島の真水にはレプトスピラなる熱病のウイルスがいる。これはネズミなどを媒介にしていて糞尿が川の水に混ざりその水が粘膜から体内に入って発症する。

ホリイ君は少し前に淀んだ水辺に入ってしまってそれが原因で発症したらしい。僕は経験がないけど、体験者から聞くとインフルエンザよりきついらしい。

そんなキツイことを体験したばかりのホリイ君には十分にトラウマが芽生えている。渇水で水も淀んでいて更に変色していたら不安でもう飲めない。この勝負、僕の勝ちだ。と思った瞬間。

「ダシャー!!」と大声をあげてホリイ君がボトルの水を口から溢れさせながら、すごい勢いで飲み始めた。しかもおかわりもしていた。最低でも1リットルはいっていたと思う。

飲みきった後に「レプトがなんぼのもんじゃーい!!かかって来いやー!」と大声でこの間苦しめられた病原菌に喧嘩を売っている漢を見て僕は心の中で白旗を上げてしまった。

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水汲みも一通り終わり、時刻も12時を少し過ぎていた。一旦お昼にしようかと言うことになり各々昼食をとった。

僕は1泊2日の食材とおつまみしか持って来てなかったので、パウチの炭火焼鳥を食べた。全然足りなかったが、僕より足りてなかった男がいたのに僕は気づかなかった。

 

昼食も済ませたので、先に進むことにした。

僕らがいる水辺の近くに岬があるのでそこまで行ってみようと話になった。

バックは帰り取るのでカメラだけ持って僕らは岬に向かった。

出発してからものの15分くらいで、岬には到着して僕らは各々写真をとった。

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30分ほどたってある程度満足できたので、帰ろうかとしていた時にナス君が岩場の隙間に傘貝がいるのを発見した。

しかも普段見てる倍くらいのサイズがある。傘貝は平べったくて岩に張り付いている。危険を感じると吸盤で更に強く張り付いてしまって、道具がないと獲るのが難しい。

特に使えそうな道具はないので、ナス君と僕は持ってた紐で岩と貝殻の隙間に紐を食い込ませて引っ張れば剥がせるかもしれないと試してみたが、強く貼りついた貝はビクともせず全然ダメだった。

そんな時、写真を撮ってたホリイ君が来たので「傘貝が沢山ありますよ!」と伝えるとホリイ君は「大きな傘貝だねー!」と嬉しそうにどうにか獲る方法無いかなとフラフラとどこかに行ってしまった。

僕は意地になって何度か紐で獲れないか試してみたが全く貝が動きそうな気配すらない。半ば諦めていた時に、ナス君とホリイ君が2人でウヒャウヒャと盛り上がってる声が聞こえた。

どうしたのかと見に行くとホリイ君が傘貝を両手に持ちながら嬉しそうに貝を剥がしている。どうやってるのか見てみると警戒して強く岩に張り付く前に石で叩いて岩から落としていた。

テンションが上がりすぎたホリイ君は生き物を前にした時のモードに入っていた。ナス君と僕は「さすがホリゴロー先生」と言いながら何か取り憑かれたようにケタケタと笑いながら乱獲無双しているホリイ君を見ていた。

みるみるうちに大きな傘貝を岩間から剥がして、今日の晩飯分くらいはあっという間にホリイ君が集めてくれた。

岬で思った以上収穫があった僕たちは野営地の浜を目指して戻った。沢で荷物を取って無心で歩いた。とにかく昼間の強い日差しでへばりながら早く帰り道を終わりにしたかった。

半分くらい進んだあたりで、潮が満ちてしまって肩くらいまで水位が来てウネリも入って歩くのが大変な所があった。それぞれバックは絶対に濡らさないように万歳をしながらバックを水面から必死に出していた。

気をつけながら波に揺られ足元を岩にとられて少し大変であったけど、超えた時の達成感は結束力が強くなった気がした。後は穴ぼこだらけの岩が並んでる所を歩いている時に火星に不時着して彷徨ってる宇宙飛行士のフリをしながら歩くと内心めちゃ楽しい事がわかった。結局1時間半くらいかけて野営地に帰って来た。時間は最初の予定どうり15時前になっていて、まだ明るい時間もたっぷりと残っているうちに帰ってこれた。

木陰でタバコをふかしながらこの後は見釣君で魚を獲るぞと意気込んでいた。昨日のウミガメも朝近くを泳いでいるのが見れたので特に繁殖期のウミガメは性欲の塊なので人が泳いでいるとメスと勘違いして後ろから乗っかられてそのまま溺死なんて事もあったらしい。それは嫌なのでなるべく3人で固まって泳ぐ事になった。

じゃあ海行こうかと言っていたら、ホリイ君が「ちょっと待って、昼飯食ってからでいい?」って言っていて。俺とナス君は「?」だった。沢で食ったのに何言ってんだこの人と思ったけど、聞いてみたらホリイ君は昼飯準備したのに

持ってくの忘れてしまったらしい。さすが忘れ物王子だ。二代目をライフジャケットを忘れたナス君が襲名したかと思っていたけど、まだまだ初代はご健在であった。

その間に傘貝が傷まないように落ちてたバケツに海水を入れて簡易の生簀を作った。死んでしまった貝が2つあったので、それは釣り餌にする事にした。

ホリイ君も飯を食い終わったので、僕らはマスクと見釣君を持って海に飛び込んだ。サンゴ礁に隠れている魚を探していると昨日見たであろう海亀が僕らの方にゆっくりと寄って来た。

普段、人を見れば遠くに行ってしまう1.5m位の大きさの海亀が自分から寄ってくると気味が悪い。この日はストーカーの様に後を付いて来られて気が散るし少し怖かった。

気にしすぎてもしょうがないので、岩場の陰にいるハタを狙って釣り針を垂らしてみた。最初は僕がやってみて失敗したら順番に渡して1つの見釣君を3人で使って遊んだ。一応ワームを釣り餌に持っていたが、やっぱり貝の方が人気がある。ワームだとそんなだけど、貝だとハタに届かせる前にだいたいベラとかに餌だけ食われてしまう。これが地味にムカつく。

一通りしてまた僕の番がきた。

ホリイ君がハタの場所を教えてくれて僕はそこに針を垂らした。リーフの際で泳いでいるのでちょうど波ができるポイントでフィンも使ってない僕たちは波のくる度に揺られて針先がうまくハタの前に降りない。

漁師網がサンゴに引っかかっていたのでそれに捕まりながらどうにか餌にハタが気づかないか何度も試していると興味を持ったハタが穴から顔を出して狙っている。後少しと思い試しているとパクッとハタが食いに来た!

でも朝はここで焦って針が掛からなかったので一拍待ってから竿を思いっきり上げると釣り糸はピンと張ってハタが暴れ始めた。針が掛かったのだ。

男3人でシュノーケルをくわえたまま「おお!!」とみんな歓喜でなにか喋っているが聞き取りづらい。

僕も糸を巻き上げて見事初見釣が決まった瞬間であった。

すぐに首を折って締めたいところだが、魚獲りをほとんどやってない僕はモタついて手の中で魚が滑ってしまってうまくいかない。見兼ねたホリイ君が代わりにエラを抜いて血抜きだけしてくれた。

魚捕ったのはいいいけど誰もメバリの様な釣れた魚を入れておく様な物を持っていなかった。なので僕は少しの間手に握って持っていたが邪魔なので、水着のポケットに入れようと少し手の力を緩めた瞬間にハタはスルッと抜けて岩の奥まで泳いで行ってしまった。2人が「ええ!」と言う顔をしたのを今でも覚えている。僕も流石に死んだと思っていたので「ええ!」しか逃げた瞬間は感想がそれしか出てこなかった。

まさかまだ生きていたとは。ただエラを抜いてしまって長くは持たないので申し訳ない事をした。

その後、僕は魚3匹を目標に掲げて必死に魚釣りに集中していた。気がつくとホリイ君もナス君もいなくなっていた。

顔を上げて周りを見渡すと浜で2人は休んでいる様だ。見釣君も1つしかないので、泳ぐのも満足したのだろうと思いその後も1人で見釣っていた。

突然海亀が目の前に来てギョッとしたり。1.3m位のホワイトチップがさっきのハタの血の匂いにつられてか泳いでいたりと、やっぱり人が入っていない海は生き物が豊富で普段浅瀬ではあまり見かける事のないサイズの魚たちが沢山いて感動ものだった。ただ1つ気になったのはゴミの多さだ。ちょうど季節風が強く吹き続けるこの時期は風が吹き付けるビーチに大量にゴミが溜まる。今回野営地にしたビーチはまさにゴミが満載となっているポイントで、ビーチから海の中まで、ビニールペットボトルやプラスチックが日本や近隣の国から流れ着いていた。サイズもピンキリでドラム缶も有れば砂つぶの様に細かいプラスチックもある。更に細かいのは目に見えないだけで沢山あるのだろう。

そんな所で泳げばもちろん口に入った海水と共に僕の体にも入っている。ここで生活する魚にも入っているしそれを食べれば尚更だ。人が住んでいない日本でも数少ない地域も汚れてしまっているなら、人の影響を受けていない物なんて自然の中にはあり得ないなと思った。オーガニックが好きで純粋無垢で毒されてない物が食べたいならイメージと真逆だけど完璧に管理された水槽の中で過ごした魚の方が要望に見合ってるはずだ。

なににも毒されていない純粋無垢で体にとても健康なイメージのそれは自然の中では成立しなくて僕らの手の中でしか作り出せない。変な話だ。

沖縄にはヒッピーやスピリチュアルで健康志向な人が多くいる。そんな人たちの中でも価値観を押し付けてくる人が中にはいて「ケミカルなものが入ったものを食べない」とか「ヴィーガンだから動物性を関与したものは食べない」とか

人の飯にケチを言ってくる人もいる。そんな人に限って海藻や魚を獲って食って「体が軽い」「エネルギーが漲る」と自然の物は正義みたいな事を言っているが、病は気からとは正にこの事だと思う。だから偏ったヒッピーみたいな人のそういう部分はあまり信用できないと僕は思ってしまう。

そんな事を考えながら、見釣をしているとホリイ君とナス君が帰って来た。見ると2人ともお手製で見釣君を持っているペットボトルやウレタンに釣り糸を巻いて針をつけて簡易見釣君だ。

釣り糸は浜の裏にある洞窟の中に荷物を色々置いて簡易住居にしている人がいるみたいで、そこにあった釣り竿から拝借してきたそうだ。あとの仕掛けは僕のを使っている。

3人で各々格闘していると、ナスくんが1匹釣り上げた!僕の二の舞にならない様に大事そうに魚を確実に締めていた。

僕も魚を釣りたくて、ウズウズしながら獲物を探していると30センチは超えているハタを見つけた。急いで針を垂らすが周りの小魚が食べ始めてとてもウザったい。でもおかげでハタも興味を持ち始めて餌をジッと見ている。

僕が早く来いと願っているとガブッとハタが周りの小魚を蹴散らして食べた!ただその瞬間に針に気づいた様で一気に泳ぎ始めた。僕の持っているおもちゃの様な見釣君ではとても相手にならないらしく、糸が止まらない。

止めようと思った時には岩で擦れてあっけなくラインが切れてしまった。

「せっかくいいサイズだったのに」とショックを受けながら針が無くなった糸先を見ながら1人ションボリと浜に帰るのであった。

浜に上がると先にホリイ君が薪を集めて焚き火の準備をしてくれていた。時計を見ればもう18時過ぎ3時間は見釣君をして泳いでいた。なのにボウズだったのが残念で仕方なかった。

僕が上がって直ぐにナス君も海から上がって来た。まだ空は明るいが昼間の様な力強さは太陽に残っていなかった。1日の終わりが近づいてくる中僕らは焚き火に火をつけて晩飯の準備に取りかかった。

もう少しだけ、大きな薪を拾おうと浜を歩いている時に股擦れがヒリヒリと痛んでいる事に気づいた。明日も歩くので今日のうちに治しておきたかった。

そう言えば、昨日股擦れなら脱いだ方が楽だよ。とナス君が言ってたのを思い出して僕も裸族の仲間入りしようかと思いズボンに手を掛けたが、自分の奥の方にいる微かな羞恥心が僕の手を止める。

暗くなってからで良いか、と思って薪を拾ってテントを振り返ると既にナス君はフルチンであった。30過ぎの男が明るいうちからチンチン出して歩いてるのを見たら、恥ずかしがってるのがアホくさくなって僕も薪を捨てて

ズボンを脱いだ。あと脱いでないのは、ホリイ君だけとなった。

僕が脱いだのを見て、すかさずナス君はホリイ君に「ホリイ!2対1なんだからお前も脱げよ」と変な所で先輩の威厳を使ってホリイ君を脱がせていた。ちょっと嫌そうにズボンを脱いでいたが、この夜1番全裸を楽しんでいたのはこの男であった。

結局、この1晩だけ裸族が誕生した。人口はたったの3人という超過疎地だが集落跡地で公民館長をやると朝は意気込んでいたナス君も全裸長になったし長になるという願望は満足できたはずだ。

ホリイ君は身長が187㎝もあるのに小顔で手足が長いので、全裸だと巨人の奇行種みたいだった。

完全男乗りな話でキャッキャとしているうちに焚き火も落ち着いて、そろそろ傘貝を食そうと僕らは浜に誰かが捨てていったであろうBBQ用の網を使って貝を焼き始めた。木には誰かの泡盛が置いてあったのでそれと持って来た醤油で

酒蒸しにして食べようとホリイ君が焼き屋のお兄さんの様にジャンジャカ焼いてくれてそれを食べた。

食べた感じは、硬めのアワビの様で味も美味しかった。

数も3人で食べて酒のアテにしていると結構腹にたまる感じで満足感もあった。それとナス君が釣った魚を焼いて持って来た残りの食料を食べてお腹いっぱい食べることができた。

ある程度酔っ払ってくると、僕は今日海の中で感じた「綺麗な海でもゴミがたくさんあるので、汚染されていない魚はいなくてみんなそれを食べてるね。」という話で偏ったヒッピーの人がよく口にするオーガニックと言う言葉が裸族の中で流行った。何を見ても食べても「オーガニックだねぇ~」「自然に感謝」と言って流行り言葉は一部の人を皮肉った遊びに変わっていった。

夜も更けて、寝る前にそれぞれ今日汲んできた水を一応煮沸消毒しておくかという事でそれぞれ鍋に水を入れて焚き火の上で水を沸かし始めた。その後もしばらく喋っていたが、焚き火も小さくなり喋り声も静かになってきた頃、ホリイ君が全く会話に入ってこないのでライトを向けてみると、ホリイ君は気持ち良さそうに砂浜の上で眠っていた。全裸なので股をおっ広げにしてチンチンも出まくっていた。警戒心と羞恥心を完全に捨てれない限りあのポーズは彼女にも見せるのは躊躇してしまうと思う。その位滅多に見れるものでは無かった。

ナス君はホリイ君の寝姿に「奇行種の巨人が倒れてる」と笑い僕もまさに進撃の巨人の一コマそのものでゲラゲラと笑いながら撮影会が始まった。

ナス君は一眼で僕はiPhoneで撮りまくった。フラッシュを焚いても全く動じないのでガッツリ熟睡していた様だ。笑い終わった僕らはまた焚き火を囲んで話していたが、ホリイ君の鍋がまだ火にかけてあったので、一応下ろしとこうかとナス君が手をかけるともう水は蒸発して一滴も残っていなかった。やっちゃったなと思ったが、もうしょうがない。あんなおっ広げている人ならしょうがないなとしか思えなかった。

少ししてホリイ君が起きたので、そろそろ片ずけて寝るかと話になっている時に僕はどうしようもなく睡魔に襲われて気がついたら眠っていたらしい。色々片付けをしてもらって申し訳なかった。

気がつくと夜中3時になっていた。みんな寝床に行った様で焚き火の近くで寝ていたのは僕だけになっていた。焚き火も灰を被りもう暖かさもなくなっていた。

僕はズボンを履いてマットを寝ていた所に直接引いてもう一度眠りについた。

 

3日目

 

キャンプに慣れてくると少し空が明るくなってきただけで、自然と目が覚める様になってくる。起き抜けは頭はボーとするが顔を洗ってスッキリするとだいぶ頭も覚める。

時刻は朝6時頃、みんな同じくらいのタイミングで起きてのんびりしていた。ホリイ君が持っていたワンタンスープを作って僕らに分けてくれた。

今日は朝から動くので熱いワンタンスープを朝飯にした。腹もたまりすぎなくてでも食っているのでこれから動くにはちょうどいい。

飯を済ませたら、後は僕らは荷物の片付けをして、7時には浜をでた。出発前に記念写真を撮って僕らは歩き出した。

この日は7時頃の陽のまだ柔らかい内に歩き出して、遅くても一気に暑くなってくる10時には山の中を歩ける様にしたい。山道は1時間ほどで終わるので、その後カヤックをに乗って出発地の港まで帰る予定であった。

予定どうり行けばお昼すぎには、遅くても夕方前には家に帰って片付けをその日の内にしたかった。

僕らの歩く海岸線は方角的に7時だとまだ陽は山に隠れて当たらない。日陰を進んでいるのだが、歩き始めて少しするとまた体が熱を蓄えているのがわかる。

とにかく陽が当たる前に岩場の続く海岸線を終わりにしておきたかった。

あまり口も開かず黙々と歩く、多分中間くらいまで来たであろう時に一度休憩をとった。

昨日汲んだ水を飲み海に入って体を冷やした。ナス君と水を分けながら飲んでいたが、もう休憩の時点で500mlもない位であった。

前に同じエリアに来た際に1度水が汲めない時があった。水も底をついて灼熱の中で脱水になりかけてキツイ思いをした時のトラウマで残り少ないボトルを見た時に内心少し焦っていた。

距離的には水の量も計算して持ってきているが、余裕がないと気持ちに響いてくる。カヤックまで戻れば置いてきた飲み水があるのでそれだけが頼りであった。

休憩も終わり後半分位の道のりを頑張ろうと喝を自分に入れて歩き始めた。少し進んで大きな岩を超えた時見えたのは、海岸線から山の道に続く入り口のポイントが見えた。

みんな拍子抜けして、さっき休憩したのは距離的に3/2位まで進んだポイントであったことに気づいて、急に足取りが軽くなった。口数も増え冗談も言いながら元気になった。

見るもの全て「この岩オーガニックじゃね」や「この岩との出会いに感謝」と言って下校中の高校生みたいなノリの会話をしていた。

そうこうしてる内にあっという間に山への入り口の前まで到着した。歩き出してからかかった時間は1時間半。来る時は3時間はかかったので、かなり早い。時刻は10時前僕らは山道に入る前に一度海に入って水を飲んだ。

水は残り300mlもないので、次に休憩はカヤックでする予定で一気に山道を登り始めた。行きで足を止めて見た景色や大きな木などに気を止めることもなく登った。

山を登っていると先頭の人が何か見つけたりしやすい。先頭のナス君は何回かイノシシを見ていた。その中でも1匹大きなイノシシがいた様で、「デケェ!あのイノシシ!!」とナス君が足を止めてイノシシを指差した。僕には一瞬黒いものが茂みの奥に消えて行く所しか見えなかったので、そんな大きかったらゴリラなんじゃないかという話になった。

ご存知の通り沖縄にゴリラはいない。むしろ大きな動物はほとんどいないがアドレナリンが出てるからか、(デカイ、黒い、動物)=でゴリラだと言っても笑える位知能指数が下がっていた。

ちなみにゴリラはみんなB型らしい。B型の血液型占いを読んだ限りでは天真爛漫なマイペースでナルシストらしい。なのでゴリラはナルシストの自己中心型が多いのであろう。そうなるとナルシストで自己中心的な人をゴリラと解釈することも出来る。ちなみにナス君もB型だ。

そんな事を言っていたら40分ほどで山の尾根を超えて下り道が出てきた。下りはとても急な道なので滑る様に降りて行った。

急が過ぎる所では順番に降りて気がつくと僕たちはカヤックの置いてある所まで10分で降りたのであった。

急いでカヤックに近寄り飲み水を爆飲みした。もう顔で飲んでる位真水を浴びて満足した。ホリイ君がくれたハイチュウが甘くて美味しくて体に染みた。

1番の難所が終わって、水問題も解決したのでもう安心しきって僕らは川の水に浸かりながら全身をリラックスさせていた。このタイミングで吸うタバコが最高にうまかった。

一通り休憩も終わったので、僕達はカヤックを川に下ろして荷物を載せてカヤックを漕ぎ始めた。予定通り昼過ぎには帰れそうなので、ラーメン食ってから帰ろうと決まり更に楽しみが出来たのでパドリングにも力が入った。

突然ナス君が、カヤックのデッキに座って漕ぎ始めて、僕も真似して乗ってみた。そしたら一気に不安定になってカヤックから落ちた。ホリイ君はそれを見てゲラゲラ笑っていたが、その後ホリイ君もやってみたら連続で2回落ちて、さらにその後も落ちていたので僕はめちゃ笑った。

その後もデッキに腰掛けたまま不安定な感じが楽しくて集中してその乗り方で漕いでいると、出発した港まで2時間ほどで帰ってきた。

港に着いたらすぐに商店で冷たいジュースを買ってみんなで乾杯をしてからがぶ飲みして、荷物を片づけてラーメン屋に向かった。

ラーメン屋ではみんなニンニク増し増しで爆食いをしてホリイ君はラーメンに大盛りチャーハンと餃子を食っていたが、もう食い切れなくなっていた。僕は一気に食べたら睡魔に襲われてラーメン屋で寝てしまうところであった。

店をを出た後は向かいのスーパーでアイスを食べて帰った。

帰りの車の中で僕らは次はどんなルートでキャンプするかを話しながら、次の旅はいつ出来るか楽しみにしながら、半分片づけにウンザリしながら旅の終わりの疲れと達成感に浸っているのだった。