部屋とスパイダーマンと私
ある日の仕事終わり、1人事務所に残って今夜寝る前に見る映画をHuluで探していた。
映画なんか家に帰ってから探せばいいのだが、あいにく僕の家にはWi-Fiがない。YouTubeとかも永遠に見続けてしまうので、携帯の通信量すら1日200メガバイトで契約している。どんなに画質を落としても動画は1時間も見れない。動画前の広告は5秒でスキップするのにそれ以上読み込んでいる灰色のバーが見えると悔しい。
そこまでするなら、Wi-Fi入れればいいじゃんと思われるかもしれないけど、動画中毒の僕としてはどうでも良い内容でもダラダラと見続けてしまうので、戒めとして家にテレビも置かないようにしている。
なので見たい動画は全て、職場のWi-Fiでダウンロードしてから家に帰っている。
話は逸れたが、Huluで面白そうなのを探しているが、一向に見つからない。
毎晩のようにHuluを使っていたら、映画やアニメで面白そうなものはもうほとんど見てしまったようだ。
ほかの配信サービスは使っていないので、楽しみが消えてしまった事に気づいて愕然とした。
もっと早くから気づいておくべき事態だ。こんなペースで見続けていたらあっと言う間に、面白そうな作品を見終わってしまうぞと、これからは気乗りしない作品を見る事になってしまうんだぞと!
欲望に走り続けて行った数々のイッキ見と言われる愚行が後々、僕をこんなに苦しめる事に今更気づいた。
後先を顧みず進む森林破壊。私欲のために狩られ続け消えて行った動物や植物たち。汚染される大海原や母なる大地!全て私利私欲の波に飲み込まれた悲しき犠牲たちだ。
ああ、僕も今Huluと言われる有限な大地で私欲のために作品と言われる動物たちを狩り尽くし、過ちを犯してしまったと懺悔に懺悔を重ねあまりの愚かさに救いを求めて、唯一の職場の後輩の一平に連絡した。
僕「もしもし一平、あのさぁーなんか面白い映画かアニメ知らない?」
平「お疲れ様です。そうですねー。意外とアベンジャーズ面白いっすよ。」
僕「オッケーありがとう!」
平「あとガンダm」
最後はなんか言っていたが、話を聞けたので電話を切ってしまった。
アベンジャーズはちゃんと見たことがない。さらにシリーズ物で面白ければ新しい開拓場所になる。
僕はウキウキしながら検索をかけてみた。
ところが、Huluにはアベンジャーズなる物はなかった。Huluストアと言われるさらに課金すれば観られる所にはあるみたいだが、それでは人のアカウントで映画を観てる意味がない。
惨敗だ。もう見る物はないのかと落ち込んでいると、関連に初期のスパイダーマンが出てきて僕は表紙を見て思い出した。
あれはまだ小学生くらいだった頃の話。
当時はターミネーター2、ジュラシックパーク、スターウォーズなど子供心をくすぐる映画が大好きだった。
幼き僕には刺激が強すぎた。本気で僕も12歳で魔法学校行けるんじゃないかと高校入学するまでどこか期待していた。
ところが、スパイダーマンはなんか惹かれなかった。スーパーヒーローとして命を張った見返りのヒロインも僕のタイプではなかった。
そもそも、蜘蛛に噛まれたら手から糸出ちゃうってどうなの?嫌じゃない?百歩譲って、噛まれた所から糸出るのはなんかまだ分かるけど、反対の手からも出る意味わかんなくない?
めちゃフィジカル強くなるのは羨ましいけどそれならスパイダーマンじゃなくていいよね。
幼心に魅力を感じられず、それ以来スパイダーマンは見ていなかった。
思い出に浸りながら、関連を見ているとアメイジングスパイダーマンなるネクストジェネレーションが現れていたのであった。
おお、これなら克服できるかもしれないと思って僕は早速ダウンロードをすませて、家に帰った。
ベッドに横たわりながら早速映画を見始めた。
主人公は少しさえない高校3年生のピーターパーカー 家の地下でメカ作りやインターネットサーフィンが趣味。
ヒロインはグウェン。ピーターと同じ高校に通う3年生。108階建の医療技術や科学技術を研究するオズコープ社、コナーズ博士率いる爬虫類の細胞研究チーム、主任研修生。
コナーズ博士、トカゲの再生能力を人にも移植できないか研究している。オズコープ社の爬虫類専門で研究をしている科学者、同じチームにグエンもいる。
とにかくヒロインの金の卵感がすごい。
高校出てめちゃ大手の研究機関で即戦力として働ける状況にある。しかもチームリーダーのコナーズ博士が優秀と言っているので間違いなしだ。
同い年くらいの研修生を引き連れて研究所の案内も任せられて、しっかりしている子だ。ただ、そんなに可愛くない。
一方、主人公のピーターパーカー
とりあえず、なんやかんやあってスパイダーマンになる。頭もいいからオズコープ社が開発したアイテムも自分1人で作れてしまう。
個人的な感想としては幼馴染のシュウヤに顔が似てた。
初代のストーリーと変わっていたところとしては悪役がゴブリンからトカゲ男に変わった。これを言えば勘のいい人なら、大体のストーリーがわかりそうだ。
あとはスパイダーマンの糸は直接出る形式ではなくピーター自身で作ったアイテムから出ることに変わっていた。
始まってすぐに思ったが、主役の登場人物の能力値がすでに凡人を超えている。
映画の説明にあった、ピーターはちょっとさえない普通の高校生。ではなかった。
途中まで見続けていると、スーパーパワーが手に入ったピーターは正体を隠すためにコスチュームを着て街に現れ始める。最初は赤いタイツだったが、改良を加えコスチュームが完成して胸にクモのマークがデカデカとついたヒーローが誕生した。
それを見て初めてスパイダーマンを見た頃の懐かしい思い出に浸っていた。
その頃、小学生だった僕は家で晩飯を食べ終わってテレビを見ていた。
隣で静かに晩酌をしている父親が口を開いていきなり『インド行に行ってみたいか?』と聞いてきた。行きたいと即答すると父親が笑顔で『一緒に行こうと』言っていた。
どうせ酔っ払ってる父親のことだからと間に受けてはいなかったが、1ヶ月後僕は学校を休んで飛行機に乗ってインドに向かっていた。
外国に行けるとテンションが上がっていた僕は何をしに行くのか聞くのも忘れていたほどであった。現地に着いて知ったが父親の職場の同僚がインド人と結ばれて向こうで結婚式を開くのでそれに行くけどお前も来るかと言う内容だった。
空港を出ると熱気に包まれた現地の匂いや雑多な感じが新鮮で僕はテンションがぶち上がっていた。
路上で寝ている牛や、移動手段で使う人力車なんかも衝撃で父親の仕事仲間が借りているアパートに数日お世話になることになったが、そこにはメイドのお兄さんがいて生活の面倒を見てくれた。
新しい事だらけで楽しかったのを覚えてる。
空いた日数はガンジス河でラフティングやキャンプをしてとても楽しかった。
散々、水には気をつけろと言っていた父親が着いて早々水にあたり体調を壊して、ずっと寝たきりなので他の結婚式に参加する予定の日本人の人たちに可愛がってもらって、普段あまり飲めなかったジュースやお菓子をたらふく食べさせてもらって、父親のことなんか忘れて楽しんでいた。
迎えた結婚式当日は、父親の体調もある程度回復していたので参加することになった。僕も普段着る事のないスーツを着て式に参加していた。
参加した結婚式は豪勢な家の屋上で開かれたパーティーのようだった。
家の前を像が歩き花びらが舞うパレードが行われ、参加者が絵に描いたようなインドの装飾で集まり映画の世界に紛れたみたいだった。
僕も途中で像に乗せてもらって、きゃっきゃとしていた。
式の終盤でみんな家の屋上に上がり、新郎新婦の結納が完了する予定であった。
ただ、お坊さんが遅れている様でみんな準備できているのに少し待ち時間があり灼熱の日差しの中、床に座って待っていた。
やっと到着したお坊さんも正装で登場した、皆が座っているその輪の中を悠然と歩く姿はとても目立っていた。そしてお坊さんが正装とは似つかわしくない、真っ青なリュックを背負っている。
よーく見るとそのリュックにデカデカとスパイダーマンが書いてあった。
しかも、USJのおみやげ屋さんで売っていそうな子供用の小さいリュックに全面に押し出したスパイダーマンの絵があって、絵の横にspidermenと書いてある。
書かなくてもスパイダーマンとわかりそうなのにだ。その場にいたおじいちゃんなんかは色味的に新しい神様か何かと思っただろう。
並べてみたら全然似てねえわ!
輪の中心でお坊さんは座り、傍にリュックを置いてる。スパイダーマンの絵がこっちを向いてるので、僕と父親は式の最中それが気になりずっとニヤついていた。
10年以上経った今でもインドのハイライトは像に乗ったことではなくスパイダーマン坊主に取られてしまっている。
気がつくと思い出に浸りすぎて、映画に全く集中していなかった。
なんかもうスパイダーマンはトカゲ男と戦っているし、一体全体見てない間に何があったんだろうか。
ダラダラとアクションシーンを見ながら、思い出に浸っていたら、またスパイダーマンの記憶が蘇ってきた。
それはバリに行った時の話。
夏のガイド業の最盛期も終わり、仕事の少ない冬が近づいていた。
この時期はみんな数ヶ月単位で休みを取って、仕事をしに本州に行く人や雪山や海外に行く人もいて、遊びに行く人たちはみんなウキウキしている。
その年、僕は当時の彼女が働いているツアーショップの社員旅行について行かせて貰える事になった。
社員旅行の主催者であるショップのオーナーがサーファーなので、みんなでサーフスポット巡りをして一ヶ月近くバリに滞在する予定だ。
人と海外に行くのなんか滅多にないので、僕はぶち上がった。
夜に関西空港でみんなと合流してビールを飲みながらそのまま搭乗口に向かった。
日本からバリまでは一晩くらい時間がかかるので、飛行機で面白くない映画を見ながらやる事もなく、結局酒を煽るしかなかった。
酔いも周り座席の寝づらさも忘れて僕は眠りこけた。目が覚め窓をのぞいた時には外が明るくなり始めていた。
少しすると機内食が運ばれてきて、僕はそれとビールを頼んだ。
グラスがあけば、次はワインをまた煽っていたら、急にキモチ悪くなってしまって残りのフライトは修行のような時間を過ごしていた。
飛行機を降りバリ島に足をつけたときのテンションはクソ下がっていた。
僕の住んでいる南の島も、冬がくればそれなりに寒くなる。荷物を受け取って空港を出たときの蒸し暑さは終わったはずの夏がぶり返してきたような気持ちにしてくれた。
普段、仕事が忙しく遊べない夏に思う存分”はしゃげる”と思うと気持ち悪さを忘れてバリ滞在が楽しみになって来た。
はじめに、これから1月近くお世話になる宿に向かった。その道中、車線を無視して無秩序に走る車やバイク達とムッとするアスファルトの熱気がインドに行った時を思い出させた。
ゲストハウスに到着すると支配人夫婦が出迎えてくれた。挨拶を済ますと朝食の時間を教えてもらって鍵をもらい部屋に案内してもらった。
部屋に荷物を置いて、早速近くの通りを周りに向かった。
路地裏ではそこら中からタバコとクローブの甘い香りとが混ざった匂いが漂い本当に東南アジアに来たんだと思わせる。
初日の夕飯は社員旅行のメンバーで飯を食いに行きがてら翌日の予定が発表された。
とりあえずバイクを借りて、自分のボードを手に入れて波のいいポイントを回ろうという事になった。
バイクは宿の人が準備してくれるのですぐに手に入った。
サーフボードはオーナーが知り合いのサーフショップに連れて行ってくれて、ちょうどシェイプ中の一本があったので、それが完成したら買う事にした。
サーフボードが手に入ってからは脇に乗せてバイクで走り回った。朝起きてから夕方まで遊びまくった。
水が合わなくて2回食中毒になったが、それより遊びたくて仕方がなかった。
ある日、船をチャーターして少し離れたスポットでサーフィンしようという事になり、朝食を済ませると船長のいるところに向かった。
てっきり店に行くもんだと思っていたが、ついたのはビーチ近くの広場で、浜にはずらりと小舟が並び木陰の下で船の持ち主たちがのんびりしている。
すぐ船を出せて値段の安い人を探してうろついていると、オーナーがこの人で行こうと1人を連れてきた。
まさに島の人間と思わせる、色黒い肌で力士のような筋肉と脂肪をつけた骨太な男である。ザックリ言うとワンピースの黒ひげみたいだ。
団扇をだるそうに扇ぎながらうっすらと汗をかいたそのオヤジは身にまとっている白いシャツが似合っていた。
シャツはボタンが全部開いていて、ビール腹が出ているのがまた似合う。みぞおちを中心に大きな刺青が入っていて見るとスパイダーマンであった。
こんな体の中心に入れる刺青がスパイダーマンで良かったのか気になる。センスも問いたかったけど、その人のおかげで波乗りも楽しめた。
やっぱり5年くらい前の旅行のハイライトはキャプテンスパイダーマンが強く残っている。あとは野生の猿の群れに囲まれた時、猿のボス対人間のオーナーの攻防戦で、履いてたサンダルを手に持ち替え、それを振り上げた姿勢で牽制し野生の猿を追い払った出来事がランクインしている。
ゴキブリも猿も退治出来るサンダルの可能性を垣間見た瞬間であった。
こんなダラダラと思い出してしまうと隠れスパイダーマンが出てくるまでが長すぎた。
あっという間に映画も進んでいて、もうスパイダーマンもボロボロで最後の戦いになっていた。
もう正直、ストーリーもそんな見てないし、だいたい流れも想像つくしいいかなと思って適当に見ていたらスパイダーマンが勝った。ヒロインのパパ死んだ。トカゲ男人間戻った。
そんくらいの感想しか出てこないいい。ああ、なんかオチがないとこんなに引っ張ったのに終われない。あああどうしよう。スパイダーマン助けて。
どうしよう。どうしよう。
スパイダーマンの思い出を絡めて書けば面白いかもと思ったけど、大失敗だ
今の所シッパイダーマンとかつまらない事しか思いつかない。
ああああああああああああ
どうしよどうしよどうしよ
とりあえず
おっぱい!!